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新しいタンパク質タグを用いた蛍光標識法同仁化学研究所 池田 千寿 細胞内タンパク質の発現量や局在状態、他のタンパク質との相互作用やコンフォメーション変化は細胞機能を明らかにする為の重要な情報である。近年、そのような細胞内情報の解析には蛍光を用いる方法が主流となってきている。この理由の一つは有用な蛍光標識プローブの数や種類が急増しているためである。 細胞内タンパク質を標識する方法として最も良く用いられる手法の一つが、GFP(オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質)に代表される蛍光タンパク質を用いる方法である。GFP目的タンパク質に遺伝子レベルで融合してキメラタンパク質として細胞内で発現させ、発現タンパク質の分布の変化をGFPの蛍光で観測する。最近では、GFPに変異を導入して蛍光の色を変化させたYFP(黄色)、CFP(シアン)や蛍光量子収率を向上したEGFP、Venusなども用いられている。 また、SNAP-TagやHalo-Tag、FlAsHなど、目的タンパク質に蛍光性を持たないタンパク質やペプチドをタグとして融合発現させ、それらタグと特異的に結合する蛍光分子を用いて標識する方法も近年数多く報告され、利用されてきている。 こうした中、最近、WaggonerらはFluorogen activating proteins (FAPs)と呼ぶタンパク質タグを用いる方法を報告している1)。これは、チアゾールオレンジ(TO)やマラカイトグリーン(MG)などのFluorogen(単独では弱い蛍光しか持たないが、何らかの物質と結合するなどにより蛍光強度が増強する色素)がタンパク質タグと結合することにより、強い蛍光を発することを利用したものである。このようなFluorogenを細胞に加えることで、タンパク質タグを発現させた目的タンパク質を蛍光で可視化することができる。 FAPsを得るために、Waggonerらはヒト一本鎖抗体(scFVs)を利用した。ヒトscFVsは幅広い抗原認識能を持った比較的小さなタンパク質(30kDa以下)であり、タグとしても利用可能である。酵母表面に発現させた可変領域の異なる109個程度のscFVsライブラリを利用して、Fluorogenと結合し蛍光増強するscFVsを単離した。 TOはDNAにインターカレートすることにより蛍光増大することが知られている分子である。そこで、DNAとの結合によるバックグラウンドを減少するため、及び水溶性向上のためにスルホン酸基が導入されたTO誘導体(TO1)が合成された。TO1やMGをPEG-Biotinと結合させ、ストレプトアビジンやanti-Biotin磁気ビーズを用いることでFluorogenと結合するscFVsライブラリを絞り込み、さらにFluorescence activated cell sorting (FACS)を用いて蛍光を発するscFVsを絞り込んだ。その後、抗原構造や水溶性を保持するためにTO1やMGをジエチレングリコールアミンと結合したTO1-2pとMG-2pを用いて選別を進め、TO1-2pに対して2つ、MG-2pに対して6つの蛍光を増幅するクローンがライブラリから単離された。 このようにして得たFAPsの内、最も小さいものは110のアミノ酸からなり、GFPの半分以下のサイズであった。FluorogenとFAPsの解離定数は数ナノ〜数百ナノmol/lであった。FAPsの結合によるFluorogenの蛍光増幅は最大のもので18,000倍であり、これはFlAsH試薬の50,000倍には劣るものの、他の抗体/ Fluorogen複合体の40〜100倍と比べると非常に大きいものである。結合力や蛍光強度、励起スペクトル、蛍光スペクトルの形はFAPs を変える事により変化した。またMG-2pのアナログであるMG ester、Crystal violet、MGを用いた検討から、同じFAPsを用いてもFluorogenの構造を変えることで異なるスペクトルが得られた。これらの結果はFluorogen- FAPsの組み合わせにより、多彩な蛍光特性をもつ標識が可能であることを意味しており、FAPsを発現している細胞の多重染色の可能性を広げるものである。 このように、多重蛍光染色によって複雑な細胞の機能を直接モニターするために、本システムは非常に有効な方法の一つであると考えられる。 Fluorogen- FAPsの設計には柔軟性があることから、今後更に進化した組み合わせが開発され、細胞機能解明のための重要なツールになっていくものと期待される。 ![]() Fig. 1 Fluorogenの構造 参考文献1) C.Szent-Gyorgyi, B. F. Schmidt, Y. Creeger, G. W. Fisher, K. L. Zakel, S. Adler, J. A. J. Fitzpatrick, C. A. Woolford, Q. Yan, K. V. Vasilev, P. B. Berget, M. P. Bruchez, J. W. Jarvik and A Waggoner, Nat. Biotechnol., 2008, 26 (2), 235-240. |
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