技術紹介

Labeling Kitシリーズ関連 
技術紹介〜タンパク質精製

1.  IgG Purification Kitによる標識前の抗体精製法

 各種動物への免疫後に得られる腹水や血清などにはイムノグロブリンG(IgG)の他に、アルブミンなどのタンパク質が多く含まれています。しかし、多くのイムノアッセイにおいて必要な成分はIgG画分のみであり、IgG以外のタンパク質成分を除去することによってバックグラウンド低減、アッセイ感度の上昇などの効果が期待されます。

 IgG Purification Kit - A/Gはわずか30分で各種動物の血清、腹水などからIgG を簡便な操作で高純度、高回収率で単離、精製するためのキットである。1回の精製につき50μlの腹水や血清、200μgのIgG精製が可能であるため、小社の各種Labeling Kitsの推奨抗体量(50〜200μg)に見合った量を一回の精製で得ることができます。本キットは血清などの精製にはもちろんのこと、市販抗体に安定化剤として含まれているアルブミン、ゼラチンなどの除去にも使用することができます。その一例をご紹介いたします。

(1)血清からの抗体精製

 IgG Purification Kit - A/Gを用いて、各種動物の血清50 μlを精製し、得られたIgG純度をSDS-PAGEにて確認しました(Fig.1)。全ての動物種において、1回の精製で高純度の精製IgGを得ることができます。
Fig.1

Fig.1 IgG Purification Kit-A/Gを用いて精製したIgGのSDS-PAGE
WS: whole serum, A: IgG Purification Kit-Aを用いて精製, G: IgG Purification Kit-Gを用いて精製

(2)市販のゼラチン含有抗体からのゼラチン除去

 ゼラチンは、約10万の分子量をもつ3本のポリペプチド鎖(α鎖)で構成されるコラーゲン分子が熱変性によりランダムな3本のα鎖に分かれたものですが、α鎖の二量体、三量体なども生成するため、通常、数万〜数百万の分子量分布を有しています。市販のゼラチン含有抗体を小社Labeling Kitsを用いて標識する際、抗体と各Reactive体との反応を妨害するだけではなく、ゼラチン自体がゲル化しやすいという特徴により、Labeling Kitシリーズで用いるFiltration Tubeの目詰まりを引き起こします。したがって、市販のゼラチン含有抗体を用いて標識操作を行う前には、ゼラチンを除去し、IgGを単離することが必要とされます。

 しかし、ゼラチン除去においては、IgG Purification Kitsのみでゼラチンを完全に除去することはできません。小社では、300K 限外濾過チューブを用いて分子量の大きなゼラチンを除去した後、IgG Purification Kitsによる精製によってゼラチンを除去し、IgGを単離しました(Fig.2)。
Fig.2

Fig.2 ゼラチン除去精製後のSDS-PAGE

1 ゼラチン含有IgG
2 IgG Purification Kit-Gのみ
3 IgG
4 ゼラチン含有IgG
5 300K 限外濾過のみ
6 300K 限外濾過 + IgG Purification Kit-G

2.小社Labeling Kitにより作製した標識体の精製

(1)Peroxidase Labeling Kit - NH2の場合

 IgG精製キットは、Labeling Kit使用前の抗体精製ばかりでなく、Peroxidase Labeling Kit - NH2を用いて得られたPeroxidase標識抗体の精製にも使用することができます。非特異的吸着の要因の一つである未反応のPeroxidaseを標識抗体溶液から除 去することで、バックグラウンドの上昇を抑えることが期待できます。

 精製前の標識体溶液とIgG精製キットで精製した標識体溶液のHPLC測定により、未反応のPeroxidaseが標識抗体溶液から分 離されたことが確認されました(Fig.3)。
Fig.3 標識抗体溶液のHPLCチャート

Fig.3 標識抗体溶液のHPLCチャート

    カラム:TSKgel G3000PWXL φ78×300 mm,
    溶離液:100 mmol/l リン酸バッファー, pH 6.8,
    流速:0.5 ml/min

(2)蛍光タンパクLabeling Kitの場合

・ゲル濾過精製(Gel Filtration)

 タンパク質の精製方法の一つであるゲルろ過による蛍光タンパク質標識抗体の精製を行いました。この手法は、タンパク質をその分子量の差を利用して分離する方法で分子量の大きい順番に溶出され、サイズ排除クロマトグラフィーともよばれています。中性バッファーを用いるため、蛍光タンパク質や抗体を温和な条件で分離精製することができます。

 ここでは、SephacrylTMS-300(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)を用いて、B-Phycoerythrin(B-PE) Labeling Kit - NH2により得られたB-PE標識抗体溶液から未反応のB-PEを分離する例を示しました。

 溶出液の吸光度を測定すると分子量の差に応じて二つのピークが現れ(Fig.4)、各分画のHPLC測定により、未反応のB-PEがB-PE標識抗体溶液から分離されたことが確認されました(Fig.5)。
Fig.4 Sephacryl<SUP>TM</SUP> S-300によるB-PE標識抗体の精製

Fig.4 SephacrylTM S-300によるB-PE標識抗体の精製
    カラム長:55 cm、溶離液:PBS(-)pH7.4、流速:0.3 ml/min

Fig.5 分離後の標識体および未反応B-PEのHPLCチャート

Fig.5 分離後の標識体および未反応B-PEのHPLCチャート
    カラム:TSKgel G3000PWXL φ78×300 mm,
    溶離液:100 mmol/l リン酸バッファー, pH 6.8,
    流速:0.5 ml/min

・Niキレート担体を用いた精製

 一般的に、His-tagタンパク質の精製にはNiキレート担体が用いられていますが、IgGのFc領域にはヒスチジンリッチな領域が存在するという点を利用して、Niキレート担体へIgGのみを結合させることにより未反応の蛍光タンパク質を除去、精製することができます。