Topics on Chemistry

リボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ活性のON-OFF制御

九州大学大学院 丸山 達生, 後藤 雅宏

 遺伝子工学のめざましい進歩に伴い、遺伝子操作ツールとしての核酸関連酵素の重要性が日に日に高まってきている。一方でRNA操作におけるリボヌクレアーゼ活性の抑制、DNA操作におけるデオキシリボヌクレアーゼ活性の抑制は必須のプロセスであり、効果的かつ多様なヌクレアーゼ活性抑制剤(阻害剤)が求められている。また核酸調製あるいは遺伝子解析において、これらヌクレアーゼを用いる方法がいくつも開発され、ただ単にヌクレアーゼ活性を抑制するだけでなく、人為的に活性をOn-Off制御する技術も必要になると考えられる。

 最近筆者らは貴金属イオンとタンパク質の非常に強い相互作用を見出し、比較的広いpH領域で貴金属イオンがタンパク質に吸着すること、貴金属イオンとのより強い相互作用を有する錯化剤(チオ尿素等)の添加によりタンパク質から貴金属イオンを脱着可能なことを明らかにしてきた1)。そこで、この相互作用を酵素活性のOn-Offコントロールに利用できるのではないかと考えた(Fig.1)。検討した酵素は、リボヌクレアーゼA(RNase A)とデオキシリボヌクレアーゼ1(DNase 1)である2)

 中性条件下で、RNase AおよびDNase 1に金イオン(テトラクロロ金酸)を添加したところ、金イオンの濃度増加に従いヌクレアーゼ活性をどちらも抑えることに成功した(Fig.2、青色)。RNase Aでは3モル等量で活性をほぼゼロに、またDNase 1では30モル等量で活性を0.1%以下にまで抑制できた。ここに金イオンの強力な錯化剤であるチオ尿素を添加すると、即座にその酵素活性が回復した(Fig.2、緑色)。先のヌクレアーゼ活性を抑制可能な金イオンのモル等量では90%弱のRNase活性の回復、および60%弱のDNase活性の回復が見られた。つまり金イオンの添加によりヌクレアーゼ活性をOffに、チオ尿素の添加によりヌクレアーゼ活性をOnにすることに成功した。

 RNase Aは非常に安定(熱失活後もRefoldingする)かつどこにでも存在する酵素であり、RNAを用いる操作では一般にRNase阻害タンパク質が必須である。市販のRNase阻害タンパク質は、ヒト胎盤由来あるいはブタ肝臓由来のものであり、非常に高価である(〜数万円)。一方、今回見出した金イオンは非常に安価で、RNase阻害における必要コストはRNase阻害タンパク質の1000分の1以下に抑えられる。また同時にDNaseも阻害可能なことから、RNase活性フリーおよびDNase活性フリーな環境を同時に調製可能になると考えられる。しかもチオ尿素添加により容易にヌクレアーゼ活性を回復(活性On)させることができるため、金イオンは今後有用な遺伝子操作ツールとして期待される。

参考文献

1) 丸山ら、農芸化学会2005年度大会要旨集、29K012β

2) 園川ら、第70回化学工学会年会要旨集、F315

著者紹介
氏名 丸山達生 (Tatsuo Maruyama)
年齢 31歳
所属 九州大学大学院工学研究院応用化学部門 助手
連絡先 〒819-0395福岡市西区元岡744
TEX: 092-802-2919, FAX: 092-802-2810 E-mail:tmarutcm@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp
学位 博士(工学)
研究テーマ 1)貴金属イオンと生体分子の相互作用を利用した分離場・酵素反応場の構築
2)脂質ナノ分子集合体を利用したナノリアクタの構築
3)酵素の物質認識能を利用した分離システムの構築

氏名 後藤雅宏 (Masahiro Goto)
年齢 44歳
所属 九州大学大学院工学研究院応用化学部門 教授
連絡先 〒819-0395福岡市西区元岡744
TEL: 092-802-2806, FAX: 092-802-2810 E-mail:mgototcm@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp
学位 博士(工学)
研究テーマ 1)新規遺伝子解析方法の開発
2)イオン液体中における酵素反応
3)界面活性剤を利用した新規DDSシステムの開発
4)分子認識化合物を用いた溶媒抽出


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