新製品
〈特長〉
・ 検水中の遊離残留塩素と瞬時に反応し、青緑色に発色する。
・ 発色試薬は安定な水溶液で、DPD法のように溶解 ・ 混和の操作が不要である。
・ 感度はDPD法の約2倍を示す。
・ 0〜2.0 ppmまでの遊離残留塩素を測定できる。
・ DPDに比べ 極めて低い細胞毒性 ・ 変異原性を示す。
〈はじめに〉
古くから水道水およびプール水中の消毒には次亜塩素酸ソーダなどの塩素剤が用いられてきました。わが国では水道法により水道水中の遊離残留塩素濃度は0.1 mg/l(0.1 ppm)以上を維持することが定められており、各水道局などでは常に塩素濃度を監視しています。また、近年公衆浴場等の浴槽水からのレジオネラ菌類による集団感染が問題となっておりますが、塩素剤を用いた浴槽水の殺菌が有効であるために、厚生労働省から浴槽水中の遊離残留塩素濃度を維持・管理するよう指針が出されています。
残留塩素濃度の測定には、安価で操作性の良い吸光光度法が望まれます。N,N-Diethylphenylenediamine (DPD)が測定試薬として汎用されていますが、1) 検水への溶解・混和が煩雑である、2)溶液状態で不安定などの問題がありました。昨年弊社で開発したSAT-3を用いた残留塩素測定では(Dojin News, No. 100, 10-11 (2001)参照)、DPDより高感度検出を実現しましたが、溶液中での安定性が十分でなく、とりわけ日光下ではしだいに着色してしまうという問題がありました。
残留塩素測定キット-SBT法は、新規発色試薬(SBT)によりSAT-3法の問題を解決し試薬溶液の安定性の向上を実現しました。また、点眼瓶による試薬添加および色調比色計の採用などにより、より使いやすいキットとしました。お客様のご要望にお応えして新たに、高温の温水測定に対応した高温用色調比色板を追加致しました。
〈セット内容〉
検水調整液(白キャップ点眼瓶) | 1本 |
色素液(青キャップ点眼瓶) | 1本 |
色調比色計 | 1式 |
試験管 | 2本 |
スポイド | 1本 |
高温用色調比色板 | 1枚 |
(キットの仕様は 平成15年6月27日現在のものであり、予告なく変更される場合があります)
〈測定手順〉
1. 試験管の下部のラインまで検水を入れる。
2. 検水調整液(白キャップ点眼瓶)を2滴加え軽くふり混ぜる。
3. 色素液(青キャップ点眼瓶)を1滴加え軽くふり混ぜる。
4. 発色後ただちに色調比色計にセットし、遊離残留塩素濃度を求める。
〈次亜塩素酸の定量〉
本キットを用いて次亜塩素酸と反応させた時の発色および吸収スペクトルをFig.1およびFig.2に示します。水中の次亜塩素酸濃度に応じてSBTの青緑色の発色が強くなります。
また、各塩素濃度におけるSBTの675 nmでの吸光度を塩素濃度に対してプロットすると、相関係数R2=0.999と良好な直線性を示します。その検量線はDPDのそれより約2倍の傾きを示し、より高感度な次亜塩素酸濃度の測定が可能です(Fig.3)。
Fig.1 残留塩素SBTキットによる発色
左より[HClO]=2, 1, 0.5, 0.25, 0.125 ppm
Fig. 2 SBTの吸収スペクトル
Fig.3 SBTおよびDPDの検量線
<浴槽水中の残留塩素測定>
近年、温泉や公衆浴場でレジオネラ菌に感染するケースが多発しています。宮崎県での集団感染では、感染者数は300名ちかくまで昇りそのうち7名が死亡するという衝撃的なケースとなりました。この他、全国各地でレジオネラ菌の感染事例が多数報告され世間を震撼させています。この背景には温泉施設の大型化・近代化に伴い、「循環式」の浴槽が普及してきたことが挙げられ、パイプやタンク、濾過器の清掃・消毒等の衛生管理を怠ったため浴槽中に菌が繁殖し、人体へ影響を及ぼす濃度にまで増殖したためとされています。厚生労働省はこのような事例を受け、レジオネラ症防止対策に関する指針等を各都道府県・政令市市長宛てに度々通達してきました。平成14年10月29日発行の指針では、「浴槽水の消毒に当たっては、塩素系薬剤を使用し、浴槽水中の遊離残留塩素濃度を頻繁に測定して、通常1 L中0.2ないし0.4 mg程度を保ち、かつ、遊離残留塩素濃度は最大1 L中1.0 mgを超えないよう努めるとともに、当該測定結果は検査の日から三年間保管すること」とされています。今後、各自治体での条例化が進み、塩素濃度の測定の義務化が予想されます。
残留塩素測定キット-SBT法は温泉水中の残留塩素測定が可能な試薬として開発いたしました。Fig.4には、熊本県内の数箇所から採取した源泉水に次亜塩素酸を添加したものを、SBT法およびDPD法で測定した結果を示しました。SBT法はDPD法と高い相関性があることが分かりました。また、残留塩素測定キット-SBT法は殺菌能力の少ない結合型塩素とは反応しません。このようにSBT法は多種多様な成分が含まれる温泉水においても正確に遊離残留塩素濃度を求めることができます。
<SBTの細胞毒性>
過去、残留塩素測定試薬として汎用されていたオルトトリジンは、その毒性が高いために2002年4月、上水試験の公定法から削除され、現在はDPDが残留塩素測定試薬の主流となっています。しかしながら、DPDもその毒性が懸念されることから、DPDおよびSBTの細胞毒性試験をヒト子宮ガン細胞(HeLa細胞)を用いて行いました。
Fig.4 DPD法との相関
Fig.5 SBTおよびDPDの毒性試験
実験の結果、図から求めたLD50はSBT:13,500 μmol/l、DPD:50 μmol/lとなり、SBTはDPDに比べて非常に低い毒性を示しました(Fig.5)。また、Ames試験により復帰突然変異誘発能の有無を確認しました。S.typhimrium TA100、TA98株を用いてDPD、SBTを比較したところ、SBTの変異原性は陰性であるのに対し、DPDではTA98(S9Mix+)株において最高比活性3.31×103rev./mgと強い変異原性を示しました。このように、SBT法はDPD法よりも人体への害が少なく、安心して残留塩素の測定にご使用いただけます。