(株)同仁化学研究所 渡辺 栄治
a)通常の競合EIA |
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b) ARIS |
図1 通常の競合EIAとARISの違い
ホルモンやペプチド等の低分子化合物の高感度検出法として、競合EIA(Competitive Enzyme Immunoassay)は重要なツールの一つである。競合EIAでは通常、試料中の抗原をビオチン等で修飾した抗原と競合的に抗体と結合し、抗体に結合した競合物を発色反応により定量する。この手法では、抗原濃度の上昇とともに発色が減り、検量線は負の傾きとなる(図1-a)。
これに対し、正の傾きの検量線が得られる競合EIA法としてApoenzyme Reactivation Immunoassay System (ARIS) がある (図1-b)。glucose oxidase (GOD)は補酵素としてflavin adenine dinucleotide (FAD)を含有している。FADを取り除いたGOD (apo-GOD)は酵素活性を有しないが、FAD加えることにより酵素活性を有するホロ酵素が再構成される。ARISはこの原理を利用した手法である。
FAD修飾した抗原と抗体を結合させ、そこへ抗原を添加すると、FAD修飾抗原が溶液中に放出される。apo-GODを添加し、溶液中のFAD修飾抗原と再構成させる。抗体と結合した状態の FAD修飾抗原は立体障害のためapo-GODと再構成することはできない。再構成されたholo-GODをグルコース/POD/TMB等で発色定量する。ARISではプレートの洗浄操作等が必要ないため、所要時間は30分ほどであり、数時間が必要な通常のEIAに比べ非常に短時間で分析を行うことができる。
Niessnerらはトリニトロトルエン(TNT)とFADのコンジュゲート(図2)を合成し、ARISを用いたTNTの検出を行っている (図3) 1)。本手法によるTNTの検出限界は5μg/lであった。ARISは抗原濃度の上昇に伴い発色する手法であることから、試験紙へ応用することも可能である。NiessnerらはARISを用いたTNT 試験紙を作成し、水道水中のTNTの検出限界は0.7μg/lであると報告している2)。このように、ARISは多くの利点を有した競合EIA であり、今後の展開が期待される。
図2 FAD-TNT複合体の構造
図3 ARISを用いたTNT検出の原理
1) M. Dosch, M. G. Weller, A. F. Buckmann, R. Niessner: Homogeneous immunoassay for the detection of trinitrotoluene (TNT) based on reactivation of apoglucose oxidase using a novel FAD-TNT conjugate, Fresenius J. Anal. Chem., 361, 174 (1998).
2) C. Heiss, M. G. Weller, R. Niessner: Dip-and-read test strips for the determination of trinitrotoluene (TNT) in drinking water, Anal. Chim. Acta., 396, 321 (1999).