試作品

アミロイド染色試薬

BSB

化学名 1-Bromo-2,5-bis(3-carboxy-4-hydroxystyryl)benzene

〈特長〉
・ アミロイドb ペプチド( A b )に対して高い親和性 ( Ki= 0.4 mmol/l)1)をもつ。
・ 従来の色素に比べ検出感度が高い蛍光色素である。
・ 脂溶性物質で、脳−血液関門を透過する。

 アミロイドーシスはアミロイドが臓器や組織細胞の外に沈着してこれらの臓器や組織の働きを阻害する病気です。アミロイドーシスには、全身の様々な部分にアミロイド沈着が起こる「全身性アミロイドーシス」と一部の臓器のみに沈着が起こる「限局性アミロイドーシス」があります。全身性アミロイドーシスには熊本地方で患者の多い家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)と呼ばれる遺伝性のものがあり、肝臓でアミロイドを作り出し、それが全身の臓器などに沈着して障害を起こします。発症後約10年で死に至る難病ですが、現在はドミノ肝移植などの治療により命を落とす危険性は少なくなっています2)。他にも高齢で非遺伝的に発症する老人性アミロイドーシスや、透析患者の治療で使用する透析膜では除けないタンパク質が変化したアミロイドが引き起こす透析アミロイドーシス、リウマチで発現するタンパク質が切れて出来るアミロイドによる二次性アミロイドーシスなどがあります。限局性アミロイドーシスには、アミロイドが脳に蓄積する老人斑(SP)があり、アルツハイマー病の特徴の1つです3)。また、現在問題となっている狂牛病(牛海綿状脳症, BSE)や新型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)も限局性アミロイドーシスの一種です。
 BSBはアルツハイマー病の研究において最初に用いられ、Skovronkyらはアミロイド前駆体タンパク質(APP)を発現するトランスジェニックマウスTg2576にBSBを静注し、18時間後の脳組織のSPに色素が集積していることを確認したと報告しています1)。
 同様にアミロイドが沈着するその他のアミロイドーシスでもBSBを用いた研究が進められておりFAP、透析アミロイドーシスや二次性アミロイドーシスなどの組織染色を行なった結果、アミロイドが沈着した部分を感度よく染色していることが確認されました。また、BSEやvCJDを発症した組織でも同様の結果が得られています。

 BSBは、従来の色素に比べ、親和性・検出感度共に高い蛍光色素です。Skovronkyらの結果からin vivo の系での使用も可能であると考えられます。従来の色素では組織染色などin vitroでしか検出できないものも多く、in vivo の系で沈着アミロイドを検出した報告はありません。BSBは安定性や毒性などの研究は必要ですが、FAPやBSEを含めたアミロイドーシスの診断・治療などの研究へのさらなる応用が期待されます。

参考文献
1) D. M. Skovronsky, B. Zhang, M.-P. Kung, H. F. Kung, J. Q. Trojanowski, V. M.-Y. Lee, Proc. Natl. Acad. Soc.U.S.A., 97, 7609 (2000).
2) 安東 由喜雄, 臨床病理, 48, 425 (2000).
3) 佐々本 一美, Dojin News, 97, 11 (2001).

 

A

赤褐色部アミロイド

B

BSBによる白色アミロイド

FAP患者の小腸スライス切片の染色像。粘膜下層部分にアミロイドの沈着が見られる。
A:Congo Red染色で、赤褐色に染まった部分がアミロイド。
B:BSBで染色したもので、白く光っている部分がアミロイド。
(画像提供:熊本大学医学部臨床検査医学 安東由喜先生)