昨年11月30日、メルパルク熊本に於いて、第12回フォーラム・イン・ドージンが開催されました。 当日は前日までの雨も上がり、白川河畔の木々の紅葉を眺めながらの一日となりました。 今回は、「生物毒から生命現象を垣間見る」と題して、国内のこの分野のトップランナーの先生方8名に講演していただきました。 遠くは関東から参加された先生方も多く、参加者延べ70名以上と、盛況のうちに終えることができ、あらためて、ご尽力いただいた先生方に感謝する次第です。 実は昨年、自然免疫をテーマに開催した際に、「防御」としての免疫の次は「攻撃」としての生物毒をテーマにしてはどうかという話があがり、折しもタイミング良く、「蛋白質・核酸・酵素」の3月号増刊「生物間の攻撃と防御の蛋白質」が刊行されたので、非常に順調に今回のフォーラムを準備することができました。 昨年同様、山本先生(熊本大)、岩永先生には企画段階からご尽力いただきました。 今年から更に、前田先生に加え、中山先生(熊本大)にもアドバイスをお願いしました。
正木先生(東京大)は、生物界を全体として見た場合、「攻撃」と「防御」との区別は曖昧で、これらは生物間相互作用というより広い概念で理解すべきだという内容の講演をされ、本フォーラムの基調を成すものでした。 細胞膜結合性毒素については、梅田先生(東京都臨床研)がリン脂質フォスファチジルエタノールアミン(PE)結合性ペプチドを用いて、PEが細胞骨格の制御に如何に関わっているかについて、また蛋白合成阻害毒については、遠藤先生(愛媛大)がリボソームRNAのN-glycosidase の作用から無細胞蛋白合成系構築に至るまでの話をされました。 両講演とも、蛋白質のフォールディングとの関連に多くの質問が集中していました。 また、細胞内情報伝達に作用する毒としては、堀口先生(大阪大)が百日咳菌壊死毒についての紹介をされました。 さらに、もう一方の代表的な生物毒としてイオンチャネル・ブロッカーがありますが、これに関しては、川合先生(自治医大名誉教授)と佐藤先生(福岡女子大)とが、それぞれ、クモ毒、貝毒を例に紹介されました。 特に、佐藤先生はペプチドの固相合成技術を駆使した内容で、フォールディングの問題もジスルフィド結合を如何に架けるかという技術的なノウハウに集約できると感じました。 ディスカッションでもこの点に踏み込んだ内容が多かったように思います。 最後のセッションでは、森田先生(明治薬科大)が血液凝固系に作用するヘビ毒について、また、鎮西先生(三重大)が吸血昆虫の唾液腺成分についての講演をされました。 いずれも活発なディスカッションで、予定の時間を大きく上回り、関係者を心配させたようです。
今回のフォーラムでは代表的な生物毒について、それぞれ第一線の研究者に講演を行っていただきましたが、それらを通してどこまで生命現象を垣間見ることができたかは分かりません。 しかし、生物毒が生命現象の根幹に深く結びついており、それの働きを理解することは、生命の営みを理解する重要な視点に他ならないと確信することができたと思います。 講演要旨集は若干の残部がございます。 ご希望の方は小社までお問い合わせ下さい。(佐々本 一美)
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