Q&A

自己組織化単分子膜

(Self-As sem bled Monolayers : SAMs)


Q1 SAMsとは、どのようなものですか。

A1 固体表面に種々の分子が自発的に高密度・高配向な分子膜を形成することを自己組織化(Self-assembly : SA)といい、形成された分子膜を自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayers : SAMs)と言います。


Q2 SAMsを構成する分子には、どのようなものが在るのですか。

A2 主に固体表面と結合性部位、アルキル鎖、機能性部位の3つから構成されており、本稿で述べるチオール誘導体の他に、有機シリコン誘導体、脂肪酸誘導体などが知られています。

 

図1

図1.金表面に形成したSAMsの模式図

 

Q3 アルカンチオール化合物SAMsの特徴はどのようなものですか。作製は簡単ですか。

A3 SAMsの中でも、アルカンチオール化合物は金と反応して Au-S結合すると共に、アルキル鎖同士のvan der Waals力によって高い配向性を持つ単分子を形成すると報告されています。SAMsの作製には、特殊な装置を必要とせず、チオール溶液中に基板を浸漬するだけで容易に単分子膜を構築できます。

Q4 チオール誘導体として、どのようなものが使用可能ですか。

A4 結合性部位はチオール(-SH)の他に、ジスルフィド(-SS-) やスルフィド(-S-)が使用されています。基板結合部位とは反対側のアルキル鎖末端に種々の機能性部位を導入することで、種々の機能を固体表面に導入することが可能です。

Q5 チオール誘導体は、基板にどのように結合しているのですか。

A5 チオール誘導体の金への化学的吸着は、以下の反応が自発的に起こる結果であると考えられています。但し、実際に水素分子は確認されていません。

R−SH + Au → R−S−Au + 1/2 H2

R−S−S−R + 2Au → 2(R−S−Au)

Q6 SAMsの用途にはどのようなものがありますか。

A6 アルキルチオール類を金表面に吸着させたSAMsは、金修飾電極や表面プラズモン共鳴(SPR)、水晶発振子マイクロバランス(QCM)等に利用されています。いずれも、基板となる金表面にチオールやジスルフィドを用いてプローブ分子を固定化し、ターゲット分子との相互作用をそれぞれ電流、共鳴吸収の角度変化、振動子変化として検出しています。

Q7 どのようなタイプの試薬があり、どのような特徴を持つのですか。

A7 弊社では、以下の7種類のチオール誘導体を取り扱っています。以下に特徴と製品群(メーカーコード表示)を記します。

(1)様々なペプチドやタンパク質、その他の分子認識サイトを導入する際に有用なチオール誘導体

   ・ 末端アミノ基型チオール:A423、A424、A425

   ・ 末端Fmoc基型チオール:F287、F288、F289

      (アミノ基をFmoc保護した化合物であり、脱保護によりアミノ基を露出させることが可能)

   ・ 末端カルボキシル基型チオール:C385、C386、C387

   ・ 末端カルボキシル基型ジスルフィド:C404、C405、C406、D524

      (チオールに比べ臭気が少なく、取扱いが容易)

   ・ 末端NHSエステル型:D537、D538、D539

      (既に活性エステル化してあるため、分子を共有結合する際、活性化の操作が必要ありません。)

(2)酸化還元反応を示し、分子修飾電極センサーへの応用等に利用されているチオール誘導体

   ・ 末端フェロセニル基型チオール:F246、F247、F269

(3)生体関連物質を検出する際に問題となる非特異吸着を抑制するために有用な、混合SAMs形成に利用されているチオール誘導体

   ・ 末端ヒドロキシル基型チオール:H337、H338、H339

Q8 膜の形成過程や配向構造はどのようにして調べれば良いですか。

A8 水晶振動子マイクロバランス(QCM)、走査型プローブ顕微鏡( STM / AFM )、FT-IRスペクトル、X線電子分光(XPS)、エリプソメトリーなどによって詳細に検討されています。

Q9 サイクリックボルタンメトリー(CV)では、どのようなことがわかるのですか。

A9 SAMsのCVから得られたサイクリックボルタモグラムとしては、チオール類の還元脱離に伴うピーク電位から、吸着量を見積もることができ、化学種が金表面にどの程度吸着しているかを知ることができます。また、ピーク電流値の変化で、SAMs形成によるレドックス分子のブロッキング能を見ることも可能です。CVの他、表面プラズモン共鳴 (SPR)やQCMでも、吸着量を見積もることができます。

Q10 SAMsを形成する基板は、どのような物が使用可能ですか。

A10 金以外に銀、白金や銅などの貴金属、種々の半導体や金属酸化物などを用いた報告があります。チオール誘導体のSAMs作製基板としては、ガラス基板などに金を真空蒸着して作製した金基板、金板や金線など測定系に合わせて任意の形状のものが使用可能です。ガラス基板に金蒸着した市販品もあります。

Q11 SAMsの電気化学的な測定などで再現性良く結果を得るために注意すべき点は何ですか。

A11 金表面の性質(結晶面など)とSAMs修飾後の処理に気を付けて下さい。

金表面は単結晶など、結晶表面の状態が解っている方が良いですが、いつも同じ処理を行い、且つ表面の平滑性が一定であれば、再現性は得られると思われます。また、SAMs 修飾後、金表面に吸着していないと推察される過剰のチオール誘導体を除去することが重要です(A.16(4)参照)。

Q12 金表面は金(111)面でなければならないのでしょうか。

A12 A11.とも関連しますが、SAMsを作製する基板の表面状態により、吸着量や検出される特性の実験結果に差を生じる為、SAMsや機能性物質の性質や性能を反映せず、金基板の表面状態の影響が評価結果に反映されることになります。そのため、チオール類の吸着挙動を調べる用途などでは、規則正しく原子配列した表面をもつ金(111)などの単結晶基板上での、限定した表面で研究が行われているようです。用途や目的によって、要求される金基板表面の状態が異なります。

Q13 基板の洗浄方法を教えてください。

A13 付着している有機物等を取り除き、金表面を清浄化するため、Piranha溶液(硫酸:30%過酸化水素水=3:1)に10〜15分間浸漬後、純水で洗浄します。Piranha溶液は、強力な酸化力を有し、多くの有機化合物と反応するので、取扱い及び廃棄には注意して下さい。但し、この方法は金基板表面のみの洗浄方法であり、例えば金電極の回りを樹脂でコートした物には樹脂を劣化させる可能性があるため、不適当です。

また、金基板の研磨による洗浄、および鏡面処理方法として、エメリーペーパーの♯1000、♯1500、♯2000で順番に磨き、最後に粒経サイズ1 μmのアルミナ粉末を懸濁させた水(アルミナ研磨剤として市販されている)をフェルト布に少量含ませて研磨する方法があります。または、粒経サイズ1 μmのダイヤモンドペーストで研磨します。

ガラス基板などに金を真空蒸着して作製した基板では、水素炎アニールにより有機物等を除去後、水洗して使用する方法やUVランプによるオゾン照射法なども行われています。

Q14 SAMsを形成するための基板の浸漬条件(溶媒、溶液安定性、濃度、浸漬時間)を教えてください。

A14 溶媒や濃度、および浸漬時間に制限はありませんが、膜の密度や配向に影響を与える可能性があります。目的に応じて調整、検討を行ってください。下記に報告されている浸漬条件の一例を記します。

(1)溶媒:チオール類が溶解し、それらと化学反応しないものが使用可能です。エタノールを使用した報告例が比較的多く見受けられます。必要に応じて蒸留したものや、溶液中の溶存酸素を除去するために不活性ガス(窒素ガスまたはアルゴンガス)バブルを行なったものを使用します。また、末端NHSエステル型などは、アルコール類やアミン類、及びチオール類と反応する恐れがあり、溶媒中の水で分解する恐れもありますので、脱水した溶媒を使用するなど、試薬によっては使用時に注意が必要な場合があります。

(2)溶液安定性:溶媒中の溶存酸素によるチオールからジスルフィドへの酸化や、水分による分解が考えられる為、溶液の用時調製をお勧めします。チオール溶液保存中に生成する副生成物は主にジスルフィドです。

(3)濃度:数μ〜数10 μmol / lで一般的に行われているようです。

(4)浸漬時間:数10分〜数時間。濃度にもよりますが、チオール類の吸着は、比較的短時間でもかなり飽和吸着に近い形で吸着しますが、その後ゆっくりと時間をかけて配向性が高くなると言われています。

Q15 溶解性を教えてください。

A15 表1.に各溶媒への溶解性データを記します。

Q16 SAMsの作製手順を教えてください。

A16 以下に簡略な操作方法の流れを記します。

(1)SAMs作製基板を用意します(A.10参照)。

(2)基板を洗浄します(A.13参照)。

(3)チオール類の数μ〜数10 μmol / lエタノール溶液に所定の時間浸漬します(A.14参照)。

(4)エタノール、純水の順に金表面を洗浄し、過剰に吸着しているチオール類を除去します。末端NHSエステル基型など、水で分解する可能性のあるものは、水洗しません。適切な溶媒で洗浄し、乾燥させるだけに留めます。

(5)必要であれば、金表面を窒素(アルゴン)雰囲気下で乾燥させます。

Q17 SAMs表面にタンパクを結合させたい。

A17 末端カルボキシル基を有するチオール類を用いた一例を以下に記します。生体物質の固定化に関しては、他の方法も報告されています。

(1)末端カルボキシル基のSAMsを作製します(A.17の操作参照)。

(2)100 mg / ml NHS水溶液100 mlをSAMs表面に滴下(または、その水溶液中にSAMs基板を浸漬)した後、 100 mg / ml WSC水溶液100 μlを加え、SAMs表面で数時間反応させます。

(3)抗体を溶解する溶媒などでSAMs表面を洗浄後、抗体溶液をSAMs表面に滴下(または、その水溶液中にSAMs基板を浸漬)します。

図2

図2.SAMs表面の活性化の模式図

 

 品名

容量 

価格(¥) メーカーコード

11-Amino-1-undecanethiol,hydrochloride〈11-AUT,HCl〉
10 mg  13,100 A423
10 mg  13,100 A423
8-Amino-1-octanethiol, hydrochloride〈8-AOT,HCl〉
10 mg 13,100 A424
100 mg 39,400 A424
6-Amino-1-hexanethiol, hydrochloride〈6-AHT,HCl〉
10 mg 13,100 A425
100 mg 39,400 A425
N-Fmoc-Aminoundecanethiol〈11-FAUT〉
10 mg 14,800 F287
50 mg 45,000 F287
N-Fmoc-Aminooctanethiol〈8-FAOT〉
10 mg 14,800 F288
50 mg 45,000 F288
N-Fmoc-Aminohexanethiol〈6-FAHT〉
10 mg 14,800 F289
50 mg 45,000 F289
10-Carboxy-1-decanethiol〈10-CDT〉
10 mg 11,300 C385
100 mg  31,000 C385
7-Carboxy-1-heptanethiol〈7-CHT〉
10 mg 11,300 C386
100 mg 31,000 C386
5-Carboxy-1-pentanethiol〈5-CPT〉
10 mg 11,300 C387
100 mg 31,000 C387
10-Carboxydecyl disulfide〈10-CDD〉
10 mg 11,300 C404
100 mg 33,000 C404
7-Carboxyheptyl disulfide〈7-CHD〉
10 mg  11,300 C405
100 mg 33,000 C405
5-Carboxypentyl disulfide〈5-CPD〉
10 mg 11,300 C406
100mg 33,000 C406
4,4'-Dithiodibutyric acid 〈DDA〉
500 mg 14,000 D524
Dithiobis (succinimidyl undecanoate) 〈DSU〉
10 mg 13,200 D537
50 mg 39,800 D537
Dithiobis (succinimidyl octanoate) 〈DSO
10mg  13,200 D538
50 mg 39,800 D538
Dithiobis (succinimidyl hexanoate) 〈DSH〉
10 mg 13,200 D539
50 mg 39,800 D539
11-Ferrocenyl-1-undecanethiol〈11-FUT〉
10 mg 11,800 F246
100 mg 36,000 F246
8-Ferrocenyl-1-octanethiol〈8-FOT〉
10 mg 11,800 F247
100 mg 36,000 F247
6-Ferrocenyl-1-hexanethiol〈6-FHT〉
10 mg 11,800 F269
100 mg 36,000 F269
11-Hydroxy-1-undecanethiol〈11-HUT〉
10 mg 11,500 H337
100 mg 34,000  H337
8-Hydroxy-1-octanethiol〈8-HOT〉
10 mg 11,500 H338
100 mg 34,000 H338
6-Hydroxy-1-hexanethiol〈6-HHT〉
10 mg 11,500 H339
100 mg 34,000 H339