コラム
糖尿病合併症の成因の一つとして蛋白糖化反応の後期生成物であ るAGE(Advanced Glycation End Products)が注目されています。AGEは、蛋白質のアミノ基と還元糖のアルデヒド基が反応し て、シッフ塩基、アマドリ転位生成物(前期生成物)を経由して、 脱水、酸化、縮合などの反応を経て得られる後期生成物です。この 過程においてアマドリ生成物から生じる3-Deoxyglucosone(3- DG)は、グルコース由来の反応活性の高いジカルボニル化合物で あり、さらに蛋白と反応することでピラリン1,2) 、ペントシジン3,4)、ピロピリジン5) 、 イミダゾロン6)といったAGEを生じるため、AGE の前駆体として重要な位置を占めています。また蛋白と糖との反応 物であるアマドリ生成物を経るルート以外にもフルクトースの自己 酸化によって生じるという報告もあり、この場合は蛋白質は必要と しません。フルクトースは糖尿病で亢進しているポリオール経路の 最終産物であり、合併症の成因を考える上で興味深く、近年その生 体内存在を確認する研究が行われています。
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3-DG (3-Deoxyglucosone) |
ラットの血漿中の3-DGは糖尿病によって有意に増加しており、
丹羽らは尿毒症患者で有意に高く、糖尿病を合併した場合にはさら
に高値であることを報告しています7)。これらは糖尿病以外の疾患
にも3-DGが関わっている可能性が考えられます。浜田らによれば
8,9)、血漿3-DGレベルは血漿グルコース及びHbA 1cのレベルと良い相関を示しています。また培養細胞系ではDNA合成阻害を介して
細胞増殖を抑制するという報告もあり生体内での作用については未
知な部分が多いようです10)。
また宮田らは糖尿病モデルラットに蛋白糖化反応を阻害するア
ミノグアニジンを投与する(50mg/kg/day)と、3週間後の血漿3- DG値は非投与群が918
nmol/lと正常群379 nmol/lに対して有意に高値となっていましたが、投与群では695
nmol/lと増加が抑制されていました。3-DGはアミノ基と速やかに反応するため、
in vitroで3-DG溶液にアミノグアニジンを添加すると3-DGは消失
することから、上記のラットではアミノグアニジンが3-DGを消
去した結果と考えられ、蛋白糖化反応阻害薬の作用点としての可
能性が示されました8)。
3-DG以外にも生体内にはグリオキサール、メチルグリオキサール
といった同様の反応活性の高いジカルボニル化合物が存在し、こ
れらはグルコースの自己酸化によって生じ、3-DGと並んでAGE
生成の前駆体とされています11)。
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生体内3-DGの検出法は現在、MSによる方法12-15) とHPLCによる方法8.9)が用いられています
16)。特にHPLC法は3-DGの反応性を利用して2,3-Diaminonaphthaleneを用いて反応させ生じた
蛍光付加体を検出する方法が知られています。2,3-Diamino naphthalene(DAN)の他、1,2-Diamino-4,5-dimethoxybenzene(DDB)17)、2-Diamino-4,5-methylenedioxybenzene(MDB)も応用
でき、これらを用いてグリオキサール、メチルグリオキサールの
検出に適用した例もあります。
このように3-DGは潜在患者を含めると690万人にともいわれる
糖尿病に関連しており、生体内の糖化反応あるいは、ジカルボニ
ル化合物による酸化ストレス物質として近年注目されております。
現在その作用機序、定量などの研究がおこなわれておりますが、
HbA1c、1,5-アンヒドロ-D-グルシトール(1,5-AG)、グリコア
ルブミン(GA)などとならぶ病態の指標となりうるのか、今後の
発展が期待される分野と考えられます。
参考文献
1) F. Hayase et al., J. Biol. Chem., 264, 3758(1989).
2) S. Miyta et al, J. Clin. Invest., 89, 1102(1992).
3) S. Taneda et al, Clin. Chem., 40, 1766(1994).
4) D. G. Dyer et al, J. Biol. Chem., 266, 11654(1991).
5) F. Hayase et al, Biosci. Biotechnol. Biochem., 58, 1936(1994).
6) F. Hayase et al, Biosci. Biotechnol. Biochem., 59, 1407(1995).
7) T. Niwa et al, Nephron, 69, 438(1995).
8) H. Yamada et al, J. Biol. Chem., 269(32), 20275(1994).
9) Y. Hamada et al, Diabetes Care, 20 , 1466(1997).
10) T. Shinoda et al, Biosci. Biotechnol. Biochem., 58, 2215(1994).
11) P. J. Thornally et al, Biochem. J., 344(pt.1), 109(1999).
12) T. Niwa et al, Biochem. Biophys. Res. Commun., 196, 837(1993).
13) K. J. Knecht et al, Arch. Biochem. Biophys., 294, 130(1992).
14) T. Niwa et al, Kidney Int., 51, 187(1997).
15) S. Lal et al, Arch. Biochem. Biophys., 342,254(1997).
16) T. Niwa et al, J. Chromatogr. B, 731, 23(1999).
17) E. Fujii et al, J. Chromatogr. B, 660, 265(1994).