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Self-Assembled Monolayer(SAM)研究用試薬

 近年、長鎖アルキル化合物を共有結合を介して固体表面に結合させると共に、アルキル鎖間のvan der Waals力を利用し、簡便に高密度・高配向な自己組織化単分子膜(SAM, Self-Assembled Monolayer)を作製できることがわかり、その応用が注目されています1〜4)

 なかでも、アルキルチオール類を金表面に吸着させたSAMは金修飾電極、表面プラズモン共鳴(SPR)5〜7)、水晶発振子マイクロバランス(QCM)8〜10)等に利用されています。いずれも基板となる金表面に、チオール化合物やジスルフィド化合物を用いてプローブ分子を固定し、ターゲット分子との相互作用をそれぞれ電気的信号変化、屈折率変化、振動数変化として検出しています。

 自己組織化する分子は、固体基板の表面と反応する結合性官能基、分子間の配向を決める主鎖、及び種々の機能性を持つ末端官能基の3つの部位から構成されています。また、主鎖の長さや親水性、及び末端官能基の選択により多彩な機能をもたせることができると期待されています1)

 SAMの作製上の特徴は、単分子膜の作成に特殊な装置を必要とせず、分子を含む溶液中に基板を浸漬するだけで容易に単分子層を構築できることです。基板の種類や浸漬条件(溶媒、濃度、温度、時間)により構造・配向を制御することも可能です。

 弊社では、固体基板への吸着部位としてチオールを有し、末端官能基としてアミノ基を有するアルキル鎖C11のものと、カルボキシル基を有するアルキル鎖C10、7、5のチオールを既に発売しています11, 12)

 末端官能基としてアミノ基を有するアミノアルカンチオール類を用いた報告は多数ありますが、そのほとんどは、アルキル鎖の短いものです。例えば、Takeharaらは、アミノアルカンチオール(H2N-CnH2n+1-SH)(n=2, 5, 8)SAMを用い金上にNaphthoquinone(NQ)を固定化し、電気化学的挙動より、NQ酸化還元サイトと電極表面の間の距離を、アミノアルカンチオール単分子膜のメチレン鎖の長さによりコントロールできると報告しています13)。また、アルキル鎖が長くなることで金電極上に高密度・高配向なSAMを作製できることが知られています3〜4)。弊社では、アルキル鎖がC8とC6のアミノアルカンチオール塩酸塩を発売することとなりました。これらは、既に販売しているアルキル鎖がC11の11-アミノウンデカンチオール塩酸塩(11-AUT, HCl)と同様に、タンパクやペプチドや、他の分子認識サイトを導入する際に有用だと思われます11, 12)

 フェロセニル基(Fc)を有するものは、電気化学的活性を持つことから、機能性分子を電極上に配列させた分子修飾電極による種々の生体機能の模倣や、センサーへの応用等の研究に利用されています3, 14〜18)。例えば、Uosakiらは、金電極表面に11-Ferrocenyl-1-undecanethiolの単分子膜を形成し、溶液内化学種の酸化還元による可逆な電流ピークをCVを用いて観察し、Fc基が電子移動メディエーターとして機能することを報告しています15〜21)。今回、アルキル鎖がC11、8、及び6のフェロセニルアルカンチオールを発売することとなりました。

参考資料

1) 近藤敏啓、魚崎浩平、ぶんせき、6, 457(1997).
2) K. Kajikawa et al., Molecular Electronics and Bioelectronics, 7 (1), 2(1996).
3) M. D. Porter, T. B. Bright, D. L. Allara, C. E. D. Chidsey, J. Am. Chem. Soc., 109, 3559(1987).
4) A. Ulman, "An Introduction to Ultra Thin Organic Films from Langmuir-Blodgett to Self-Asembly", Academic Press, San Diego(1991).
5) 河田聡、高木俊夫、蛋白・核酸・酵素、37, 3005(1992).
6) 笠井献一、蛋白・核酸・酵素、37, 2997(1992).
7) 橋本せつ子、ぶんせき, 5, 362(1997).
8) 岡畑恵雄、新倉謙一、蛋白・核酸・酵素, 40 (2), 165(1995).
9) Y. Okahata, Y. Ijiro et al., J. Am. Chem. Soc., 114, 8299(1992).
10)K. Niikura, K.Nagata, Y. Okahata, Chem. Lett., 863 (1996).
11)M. Collinson, E. F. Bowden, M. J. Tarlov, Langmuir, 8, 1247(1992).
12)S. Song, R. A. Clark, E. F. Bowden, M. J. Tarlov, J. Phys. Chem., 97, 6564(1993).
13)F. Mukae, H. Takemura, K. Takehara, Bull. Chem. Soc. Jpn., 69 (9), 2461(1996).
14)J. L. Anderson, E. F. Bowden, P. G. Pickup, Anal. Chem., 68, 379R(1995).
15)K. Uosaki, Y. Sato, H. Kita, Langmuir, 7, 1510(1991).
16)C. E. D. Chidsey, C. R. Bertozzi et al, J. Am. Chem. Soc., 112, 4301(1990).
17)J. J. Hickman, D. Ofer, P. E. Laibinis, Science, 252, 688(1991).
18)E. Katz et al, J. Electroanal. Chem., Interfacial Electrochem., 373, 189(1994).
19)K. Uosaki et al, Langmur, 10, 3658(1994).
20)K. Uosaki et al, J. Electroanal. Chem., 372, 117(1994).
21)T. Kondo et al, J. Electroanal. Chem., 381, 203(1994).