試料の前処理8

(株)同仁化学研究所  大倉 洋甫


 この連載reviewでは、有機化合物分析における試料の前処理について、主として生体試料中の微量物質測定の場合をターゲットにして概説している。1〜6項で試料の前処理の基本的な事項(Dojin news, No.77〜No.79)を、7項で液・液抽出(Dojin news, No.81〜No.83)を、8項で固・液抽出(現在よく使われる固相抽出を含む)(Dojin news, No.83及びNo.84)を記した。


9.透析

 透析というと、古くから用いられている半透膜の袋、コロジオンバッグを、またハイテクの透析膜を使う血液透析を思い起こす方も多いだろう。
 透析は大きいサイズの化合物群(高分子物質)と小さいサイズの化合物群(低分子物質)を、細孔を有する透析膜に通して、サイズ別に大まかに2分画する方法の1つである。生体高分子などの研究を目的とする場合に広く使われてきた。
 水性試料溶液をセロファン、コロジオンなどで作った袋やチューブに入れ(内容物は透析内液)、これを水や低濃度の緩衝液(透析外液)中に放置する。低分子物質は膜の細孔(孔径はnmオーダー)を通過して透析外液へ移行する。
 通常の実験で透析膜として繁用されてきたのはセロファン製のビスキングチューブ(Visking tube)である。試料をこのチューブに入れ、ひもで口をくくって、透析外液中に侵す。透析内液と外液間ににおける低分子物質の透析平衝には長時間を要する。このため、透析外液をマグネチックスターラーでかく伴して、速やかな平衝移動を促す。
 高分子物質の方が必要な場合は、流水を透析外液とすることも多い。低分子物質が分析対象のとき、透析外液が著しく多量となり、この濃縮が必須となる。これはめんどうであるばかりか、定量精度も害する。従って透析法は低分子物質の分析にはあまり適さない。
 長い透析時間は試料中における微生物の繁殖、成分の変化などによるアーチファクトの原因となる。この防止のために、透析時の温度、抗菌剤や防腐剤の添加の可否とその量などの最適条件を検討しておくことが望ましい。
 透析膜は通過限界分子量約3,000〜種々のものがチューブ状で市販されている。一般的には、孔径4nm程度の透析膜で作った通過限界分子量約10,000のビスキングチューブが最も多用されているようである。血液透析に用いられるような中空繊維(hollow fiber)型のチューブは微量試料の実験では一般には用いられない。
 なお、低分子物質の分析の際サイズ別2分画には、サイズ排除剤を用いる固相抽出法(既報の8項C参照)や後述する荒分け用サイズ排除液体クロマトグラフィー(以前から、高分子物質をターゲットとして検討されてきたので、ゲル濾過法と呼び慣らされてきた)の方が、迅速かつ定量的で、試料の希釈も透析法より小さく、分析目的物質の濃縮が可能な場合もあり、特に試料溶液量が少ないときには好ましい。また、次項で述べるもう1つのサイズ別2分画法、限外濾過、が有用な場合が多い。


(天津にて;香港返還の慶祝かつ喧騒の日に浄書)