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NOS inhibitors
inhibition by non-amino acid isothioureas & others

 NOは一酸化窒素合成酵素(NOS)によってL-アルギニンのグアニジノ基と、分子状酸素を基質として生成される。現在、NOSには、大きく3つのアイソフォームが存在することが知られており、NADPH、FMN、FAD、テトラヒドロビオプテリン(BH4)を補酵素として、L-アルギニンからNG-ヒドロキシ-L-アルギニン(L-NOHA)を経て、L-シトルリンとNOを生成する。
NOSは、発現様式や誘導因子などで数種のアイソフォームに分けられる。細胞内に常に構成的に発現するcNOS(constitutive NOS)と誘導因子によって発現するiNOS(inducible NOS)である。またcNOSは神経型NOS(nNOS, bNOS)、血管内皮型NOS(eNOS)の2つに大別できる。
NOのもつその多彩な生理活性やパーオキシナイトライトに見られるような細胞毒性の観点から、NO産生を制御することは重要であり、NOS阻害剤の存在は無視できないと考えられる。NOはL-アルギニンを基質として生成されるため、アルギニン誘導体がNOS阻害活性を示し、これまでにL-アルギニンのグアニジノ基を修飾した化合物であるL-NMMA、L-NAMEをはじめ、数種の阻害剤が開発されている。
 既に弊社も、広範に使用されているL-NMMA、L-NAME、L-NNA、L-NIL、L-NIO、L-Thiocitrulline、S-Methyl-L-thiocitrullineなど、アルギニンおよびチオシトルリンのアナログと、NADPHの結合を阻害するDiphenyleneiodonium chloride、および7-Nitroindazoleを阻害剤として発売している。
 NOS阻害剤を用いた薬理実験により、cNOSが生理的恒常性維持に深く関与し、iNOSは種々の疾患の発症に関与しているなどNOの生理学的、病態的意義が明らかにされている。これらのNOS阻害剤は現在ではNOの生理作用を検討する重要なツールとなっているが、NOSの酵素化学的解析が進むにつれ、iNOSなど種々のアイソフォームをより高選択的に阻害するものが望まれている。
 今回新たに、iNOSに高選択的な阻害剤としてイソチオ尿素誘導体、S-Methyl-ITU、S-Ethyl-ITU、S-Isopropyl-ITU、S-Aminoethyl-ITUの4種及び2-Iminopiperidine、またNOSの補酵素であるテトラヒドロビオプテリン(BH4)の合成誘導阻害剤のDAHP、7-Nitroindazoleよりも脳のNOS(bNOS)における強力な阻害活性を示す3-Bromo-7-Nitroindazole、リポ多糖(LPS)とインターフェロン-γ(IFN-γ)によるマクロファージのiNOS活性化に必要とされるNuclear FactorκB(NF-κB)の活性化をブロックするAPDCを商品化した。
 イソチオ尿素誘導体であるS-Methyl-ITU、S-Ethyl-ITU、S-Isopropyl-ITU、S-Aminoethyl-ITUの4種は、iNOSなどを高選択的に阻害する。バクテリアルエンドトキシンで処理したマクロファージJ774.2細胞に対して、それぞれEC50=6μM、2μM、3μMであり、L-NMMA(EC50=48μM)に比べ8〜24倍、アルギニン類似体の中ではiNOSに対して比較的選択的であるL-NIOよりも強力であると報告されている1〜4)。特にS-Isopropyl-ITUは、S-Methyl-ITUに比べて10倍強力な阻害効果[Ki:S-Isopropyl-ITU(0.01μM),S-Methyl-ITU(0.1μM)]を示す。またイソチオ尿素誘導体は、マウスiNOSよりもヒトiNOSに対して[Ki(human iNOS)/Ki(mouse iNOS)]、2〜19倍選択的であるという報告もある3)
 これらイソチオ尿素誘導体による阻害効果は、投与量に依存的であり過剰のL-アルギニンにより回復されることから、NOSのL-アルギニン結合サイトに競争的に作用すると考えられる。イソチオ尿素誘導体は、グアニジン類似の構造により基質結合サイトのグアニジン認識部位に結合すると推察される。L-アルギニンの場合には結合サイト内のヘムによってグアニジン部位の窒素が酸化されるが、イソチオ尿素誘導体では窒素原子の代わりにアルキル置換された硫黄原子とヘムとの相互作用によりNOSの阻害が生じると報告されている(Fig.1)3)。この結果は、アルキル鎖の構造を変化させた場合、阻害活性を示すのは炭素鎖が1〜2の短いものだけであることからも支持されると考えられる2)
 2-IminopiperidineはヒトiNOSに対して選択的で強力であり、ヒトiNOSに対してEC50=1.0μM、eNOSにはEC50=4.7μMで、nNOSにはEC50=1.1μMで、他のinhibitorよりも低濃度で作用し、L-NILが同じヒトiNOSに対してEC50=4.6μMであるのに比べると、4.6倍強力である。しかし、ヒトnNOSに対しては、L-NILはEC50=61μMで、EC50でeNOS/iNOSの比を比べるとL-NILの方が選択性は高いとも言える。従って2-IminopiperidineはヒトiNOSに対しては強力ではあるが、同程度にnNOSにも作用する(Table 1)5)

Table 1  各Inhibitorの種々の細胞に対する中間効果量(EC50)
Inhibitor NOS EC50(IC50) 文献
S-Methyl-ITU macropharge iNOS 6.0μM 1)
rat macropharge J774.2-cell(iNOS) 6.0μM(L-NMMA:48μM)
8.0μM
2)
6)
vascular smooth muscle cell 2.0μM 1)
S-Ethyl-ITU rat macropharge J774.2-cell(iNOS)
(eNOSやnNOSに対しても20〜30倍選択的)
2.0μM
21μM
2)
6)
S-Isopropyl-ITU rat macropharge J774.2-cell(iNOS) 2.0μM 2)
S-Aminoethyl-ITU rat macropharge J774.2-cell(iNOS)
(eNOSに対しても6倍強力であるが昇圧効果は弱い)
2.0μM 2)
2-Iminopiperidine human iNOS 1.0μM(L-NIL:4.6μM) 5)
eNOS 4.7μM 5)
nNOS
(eNOS/iNOSでは、L-NILが選択的)
1.1μM(L-NIL:61μM) 5)
rat macropharge J774.2-cell 10μM(L-NMMA:70μM)
(L-NNA:210μM)
6)
3-Br-7-Nitroindazole rat cerebellum(nNOS) 0.17μM(7-NI:7.1μM) 13,14)
bovine endothelial(eNOS) 0.86μM(7-NI:7.8μM) 13,14)
rat lung(iNOS) 0.29μM(7-NI:5.8μM) 13,14)

 またin vivoにおいてもLPS刺激したラットに2-Iminopiperidineを経口投与すると容量依存的に血漿中のNO2/NO3レベルの上昇を阻害することから、in vivoでもiNOSの阻害剤としての可能性を示唆している5,6)
 またマウスのマクロファージJ774.2細胞では、EC50=10μMであり、S-Methyl-ITUのEC50=8μMと比較して同程度であり、S-Ethyl-ITU(EC50=21μM)、L-NMMA(EC50=70μM)、L-NNA(EC50=610μM)よりも強力であると報告されている5)


Fig.2   テトラヒドロビオプテリン(BH4)の生合成のメカニズム


DAHPは、GTPからBH4を合成する酵素GTP cyclohydrolase(GTPCH)を阻害する7)
 BH4はiNOSのco-factorの一つであり、Fig.2に示したスキーム8)にしたがってGTP cyclohydrolase、sepiapterin reductase、及びaldose reductaseによってGTPから産生される。DAHPによってGTP cyclohydrolaseが阻害されるとBH4が産生されなくなるが、sepiapterinはpterin salvage pathwayによってBH4産生の基質として作用し、DAHPによるビオプテリン産生阻害を回復する。またこの可逆性はpterin salvage pathway阻害剤であるmethotrexateによって妨害される11)と報告されている。
 構成型であるcNOSにおいてBH4は、iNOSに比べてより強く結合し、ほぼ飽和された状態にあるため、BH4産生を抑制してもそのNOS活性は十分に発現される。しかし、BH4に依存性の高いiNOSに対しては、DAHPによって活性発現が阻害されると報告されている11)
 DAHPはiNOS蛋白及びmRNAの発現を減少させて、NO産生を抑制する。例えば、5mM及び10mMのDAHPの存在下にIFN-γでマウスマクロファージを刺激すると、培養中のNO2-量は75%減少し、この場合、EC50=3.4mMであった。またDAHPは濃度依存的にIFN-γで刺激したマクロファージの細胞内のBH4濃度とトータルのビオプテリン量を減少させる。10mMのDAHPでは細胞内のBH4濃度は95%減少すると報告されている10)。しかし、DAHPをはじめとするBH4合成阻害剤を生体に長期投与した場合、細胞内のBH4プールが枯渇し、芳香族アミノ酸hydroxylase活性低下による中枢、末梢神経における情報伝達異常がもたらされる可能性も否定できないものと思われる11)
 3-Br-7-Nitoroindazoleは、7-Nitroindazoleよりも脳のNOS(bNOS)における強力な阻害剤である。エンドトキシンで処理したラットの大脳組織細胞(bNOS)に対してはEC50=0.17μM、肺細胞(iNOS)では0.29μM、ウシ内皮細胞(eNOS)では0.86μMであり、7-Nitroindazoleに比べbNOSで4倍、iNOSで20倍、阻害効率も96%とその強力な阻害効果が報告されている13,14)
 APDCは、マクロファージのアポトーシスや炎症に関与しているNuclear Factor kappa B(NF-κB)の活性化をブロックする15,16)。Shermanらはリポ多糖(LPS)とインターフェロンγ(IFN-γ)で刺激し、APDCを添加してiNOS活性を測定している。刺激の2時間前にAPDCを添加したものは99%以上iNOS活性を阻害したが、刺激の6時間後に添加したものはほとんど阻害を示さなかった。LPSとIFN-γによるマクロファージのiNOS活性にはNF-κBの活性化が必要と示唆される17)

参考文献

S-Methyl-ITU, S-Ethyl-ITU, S-Aminoethyl-ITU
1) C. Szabo, G. J. Southan, C. Thiemermann, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 12472 (1994).
2) G. J. Southan, C. Szabo, C. Thiemermann, Br J. Pharmacol., 114, 510 (1995).
3) E. P. Garvey, J. A. Oplinger, G. J. Tanoury, P. A. Sherman, M. Fowler, S. Marshall, M. F. Harmon, J. E. Paith, E. S. Furfine, J. Biol. Chem., 269, 26669 (1994).
4) M. Nakane, V. Klinghofer, J. E. Kuk, J. L. Donnelly, G. P. Budzik, J. S. Pollock, F. Basha, G. W. Carter, Mol. Pharmacol., 47, 831 (1995).

2-Iminopiperadine
5) W. Moore, R. K. Webber, K. F. Fok, G. M. Jerome, J. R. Connor, P. T. Maning, P. S. Wyatt, T. P. Misko, F. S. Tjoeng and M. Currie, J. Med. Chem., 39, 669 (1996).
6) G. J. Southan, C. Szabo, M. P. O'Conor, A. L. Salzman, C. Thiemermann, Eur. J. Pharmacol., 291, 311 (1995).

DAHP
7) T. Kobayashi, H. Hasegawa, E. Kaneko and A. Ichiyama, J. Pharmacol. Exp. Ther., 256, 773 (1991).
8) G. Schoedon, M. Schneemann, S. Hofer, L. Guerrero, N. Blau and A. Schaffner, Eur. J. Biochem., 213, 833 (1993).
9) G. W.-Felmayer, E. R. Werner, D. Fuchs, A. Hausen, G. Reibnegger, K. Schmidt, G. Weiss and H. Wachter, J. Bio. Chem., 268, 1842 (1993).
10) C. Bogdan, E. Werner, S. Stenger, H. Wacher, M. Rollinghoff and G. W.-Felmayer, FEBS Lett., 363, 69 (1995).
11) S. S. Gross and R. Levi, J. Biol. Chem., 267, 25722 (1992).
12) P. G. Jones, F. J. van Overveld, H. Bult, A. Vermeire and A. G. Herman, Br. J. Pharmacol., 107, 1088 (1992).

3-Bromo-7-Nitroindazole
13) P. A. Bland-Ward, P. K. Moore, Life Sciences, 57, PL131 (1995).
14) P. A. Bland-Ward, A. Pitcher, P. Wallace, Z. Gaffen, R. C. Babbedge, P. K. Moore, Br. J. Pharmacol., 112, 351P (1994).

APDC
15) Valerie Schini-Kerth, Agnieszka Bara, Alexander Mulsche, Rudi Busse, Eur. J. Pharcol, 265, 83 (1994).
16) R. Bessho, K. Matsubara, M. Kubota, K. Kuwakado, H. Hirota, Y. Wakazono, Y. W. Lin, A. Okuda, M. Kawai, R. Nishikomori, T. Heike, Biochem. Pharmcol., 48, 1883 (1994).
17) M. P. Sherman, E. E. Aeberhard, Br. J. Pharmacol., 112, 351P (1994).
Price List 価格(¥)
S-Methyl-ITU 344-07251 1g 8,500
S-Ethyl-ITU 341-07261 1g 8,500
S-Aminoethyl-ITU 348-07271 1g 8,500
2-Iminopiperodeine 346-07331 100mg 9,200
DHAP 345-07301 1g 5,500
3-Br-7-Nitroindazole 342-07291 25mg 9,200
APDC 345-07281 1g 7,500
S-Isopropyl-ITU 344-07371 25mg 9,500