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28th フォーラム・イン・ドージン開催後記

 2017 年 11 月 17 日、「 D- アミノ酸生物学〜右と左からみた生命の世界〜」と題して、第 28 回のフォーラム・イン・ドージンが熊本市で開催された。昨年は熊本にもゆかりのあるエリスロポエチンがテーマだったが、今年の D- アミノ酸は熊本にも研究者がおらず、少しテーマとしてはマイナー過ぎるかなと危惧していたが、演者の先生方のプレゼンに対して熱のこもった議論が交わされ、時間も押し気味で進められた。確かに、分析技術の進歩も伴って、D- アミノ酸への関心が最近、高まってきているようだ。そもそも、生体は左に偏っている。ところが意外にも、右、すなわち D- アミノ酸がヒトの体からも多く見つかっているらしい。これらは何をしているのだろう。それらの起源を含めて、何が不斉環境を生みだしているのか、多くの謎が存在している。

 小社に硫化水素研究用の -SulfoBiotics- という製品群があるが、硫化水素産生経路の一つとして、(特に、脳や腎臓では)D- システインを利用する経路が知られている。D- システインは体内では作られてはおらず、何故、天然の L 体ではなく、わざわざ D 体を利用しているのか不思議に思っていたが、今回のフォーラムで少しだけ見えてきたような気がした。脳では D- セリンが NMDA 受容体の co-agonist として働いており、精神神経活動を調節している。その仕組みを解明することで、うつや統合失調症あるいは認知症の診断・治療への道が開かれる。

 講演では、西川先生(東京医科歯科大)と福井先生(徳島大)が、この分野の最新の研究を紹介された。また、細菌の生存戦略として D- アミノ酸の利用がよく知られているが、それらの役割を笹部先生(慶応大)が進化的な視点も交えて話された。L 体に偏っていること自体、エネルギーコストがかかっている。生きていることは偏っていることであり、死がそれを解消する方向だと思うと、老化とともにラセミ化が起こることは理解しやすい。老化や疾病のマーカーの可能性については藤井先生(京都大)が紹介された。そして、これら午後のセッションに先立ち、午前中は D- アミノ酸研究の現状を吉村先生が総括的に紹介され、続いて本間先生(北里大)が、酸性 D- アミノ酸の最新の研究内容を話された。

平成とともに歩んできたこのフォーラムも今年で 28 回を重ね、そろそろ三十路を迎えようとしている。はやりのテーマを追いかけ過ぎると、同仁らしさが失われ、かといって、流行からかけ離れたテーマは企業としても企画しづらい。数年前より発足した新たな世話人会で、半歩先をゆくテーマを楽しく議論している。今後もご期待ください。(佐々本一美)

なお、要旨集の残部がございますので、ご希望の方は小社マーケティング部までお問い合わせください。

 
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