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超分子形成を利用した多点認識型分子認識システムの開発
Development of multipoint molecular recognition systems based on supramolecular formation

土戸 優志
上智大学理工学部 特別研究員
早下 隆士
上智大学 学長
上智大学理工学部物質生命理工学科
教授

 

Abstract

  Multipoint recognition is an important strategy which is widely used in biological systems for enhancing binding affinity and selectivity. By mimicking these recognition systems, many researchers have attracted much attention for the design of artificial supramolecular systems over the last several years. In this review, we described the development of supramolecular sensor based on the multipoint molecular recognitions. Several design concepts of molecular recognition systems based on (1)self-assembly of amphiphilic probes, (2)molecular recognition probes/cyclodextrin complexes, (3)molecular recognition probes/dendrimer complexes, and (4)molecular recognition moieties-modified linear polymer have been reviewed. These bio-inspired molecular recognition systems based on the formation of supramolecular complexes are expected for the development of novel nanomaterials or functional materials.

1. はじめに

 生命において重要な役割を担っている生体内の分子は、きわめて精緻で巧妙に機能している。生体内の分子はその働きを共同的に調節したり(フィードバック調節)、生体内の小分子が自己組織的に複合体を形成して機能を発現したりすることで、生命の維持を行っている。例えば、タンパク質は疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸から構成されている、両親媒性の高分子である。その構成比率は通常の水溶性タンパク質ではほぼ等量であり、膜タンパク質では疎水性アミノ酸の割合が高い。タンパク質は、水中においてポリペプチド中の疎水性残基が「のり」の役割を果たし、その疎水性会合力により疎水面を内核として球状の形態をとる。他にも、酵素や抗体、 DNA や RNA などの多種多様な分子が生体内で自己組織的に高次構造を形成して複雑な機能を発現している 1) 。このように、生命の長い進化の過程において築きあげられてきた巧妙な生体機能に倣って、人工系の合成分子によって高次構造形成やその機能を実現するだけでなく、それを凌駕する分子の設計・開発が数多くの研究者によって進められている。
 生命においては、方向性を有する結合である水素結合が高度な分子認識の発現に大きく関与している。生体内では周囲が水で覆われた親水的な環境下でありながら、分子認識や自己組織化を起こす部位が疎水的な場におかれるよう、巧妙な分子設計がなされている。タンパク質の一種である酵素は特定の基質と反応する酵素活性部位を持つが、その基質の分子認識場である活性部位の多くが疎水場に存在している。このように、高度な分子認識を実現するにおいて分子認識に適した場を形成することが重要である。人工系においても、ターゲットとなる特定のタンパク質を認識できる合成分子の開発が進められてきた。その代表的な例が医薬品であり、ターゲットとなるタンパク質に応じて分子認識部位を精密に分子設計して作られている 2) 。しかし、より低分子量の分子をターゲットとした分子認識に目を向けると、従来型の人工系の合成分子は有機溶媒中では高い分子認識能を持つものの、極性溶媒である水中では分子の相互作用が打ち消されるために有効に機能しない場合が多い。例えば、クラウンエーテルは有機溶媒中においてその環サイズに応じて特定のアルカリ金属イオンと選択的に結合を形成するが、水中ではその結合定数は非常に小さい 3) 。また、多くの有機分子は疎水性が高いものが多いために、水への溶解性が課題となっている。
 その一方、比較的単純な構造の分子同士を組み合わせた超分子型の分子認識プローブが近年注目を集めている。超分子型の分子認識プローブは、@合成が比較的容易で低コストである、A分子認識部位を持つ分子を複数組み合わせることで多点での分子認識が期待できる、外部環境に応じた分子構造の変化によって分子認識能を制御できる、などの利点があげられる。筆者らのグループでは、従来の 1:1 型の相互作用に基づく分子設計では得られない多様な分子認識機能を有する、超分子複合体形成を利用した分子認識システムの開発を進めている 4) 。本稿では、近年の超分子複合体形成を利用した分子認識系について、筆者らの研究を中心に紹介する。

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2.自己会合形成を利用した分子認識システム

 親水性部位と疎水性部位を分子内に併せ持つ両親媒性分子は、臨界ミセル濃度を超えると分子同士が自己会合し、ミセル形成することが知られている。臨界ミセル濃度は両親媒性分子の親水性部位と疎水性部位のバランス(Hydrophile-Lipophile Balance, HLB)によって決まる。筆者らは、HLB を分子認識などの外部刺激によって変化させ、分子認識に伴って生じる自己会合状態の変化を光学的情報で検出することのできる両親媒性分子の開発を行った。図 1 に開発したクラウンエーテル型両親媒性アゾプローブ(15C5-Azo-Cn)の基本骨格を示した 5), 6) 。親水性部位として四級アンモニウム、疎水性部位として直鎖状アルキル鎖および光情報変換部位であるアゾベンゼン、末端にアルカリ金属イオン認識部位であるクラウンエーテル骨格(ベンゾ-15-クラウン-5)を導入した。アゾベンゼンは紫外光照射によってπ-π * 遷移に由来する 350 nm 付近の吸収が大きく減少するが、アゾベンゼンが会合すると、励起子相互作用によって、分子同士が積み重なった状態(H 会合)では短波長シフト、ずれて配置された状態(J 会合)では長波長シフトを示すことが知られている 7) 。15C5-Azo-Cn に、種々のアルカリ金属イオンを添加したときのイオン選択性について吸光度比(A370/A420)をとって検討したところ、15- クラウン-5 と 1:1 錯体を形成することで知られる Naイオンよりも、イオン半径の大きな Kイオンを添加した系において、より大きな吸光度変化および短波長シフトが見られた。これは、Kイオンによってサンドイッチ型の二量体形成による会合が促進されたためであると考えられる。また、その会合応答はアルキル鎖長に依存し、n = 6 の場合に最も高い Kイオン選択性が得られた。水中において金属イオンの配位結合に誘起された会合を形成するには、会合力を高めるために適当な長さのアルキル鎖が必要であるが、長すぎるとアルキル鎖の疎水性相互作用によって金属イオンがない条件でも自己会合がおこるため、金属イオンに対する認識能は低下することがわかる。以上より、アルカリ金属イオンを認識することでプローブ分子が単分子の状態から二量体を形成し、吸収スペクトルの変化として観察することができた。この会合形成にはアルキル鎖長の長さ、つまり疎水性部位における疎水性相互作用の強さを制御することが重要であることを明らかにした。従来、水中でのアルカリ金属イオン認識は難しいとされてきたが、イオン認識に伴う会合形成の制御によって実現できる点が興味深い。

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3.シクロデキストリンを用いた分子認識システム

 シクロデキストリン(cyclodextrin,CyD)は、グルコース分子同士がα-1,4 グリコシド結合で結合している環状のオリゴ糖であり、その環を形成するグルコース分子数に応じて、α-CyD(6 個)、β-CyD(7 個)、γ-CyD(8 個)の 3 種類が知られている。 CyD は環の内部が疎水場であるため、有機分子を疎水性相互作用により包接し、安定化することができる。この性質を利用して、これまでに食品や化粧品、医薬品分野への応用が進んでいる。そこで筆者らは、CyD の疎水場に着目し、ここに種々の分子認識プローブを包接させ超分子複合体を形成させることにより、新しい機能が発現することを報告している。

 前述した系と同様に認識部位にベンゾ-15- クラウン-5 を用いた蛍光型のプローブ(15C5-C3Py)を設計した(図 28),9) 。15C5-C3Py は有機溶媒中ではその環サイズに対応して 1:1 型錯体を形成する Naイオンに選択性を示すが、水中では、γ-CyD 存在下 K の添加によってピレンのモノマー蛍光が消光し、長波長側で新たにブロードな蛍光を生じる。これは 15C5-C3Py が γ-CyD に包接されて Kイオンを認識してサンドイッチ型の二量体を形成したことで生じたダイマー蛍光であり、水中で Kイオンのみを高感度に検出できることを明らかにした。
 また、ベンゾ-15- クラウン-5 およびジピコリルアミノ基の 2 つの異なる分子認識サイトを 1 分子の両末端に有するジトピック型のアゾプローブ(15C5-Azo-dpa)を設計した(図3)) 10) 。 15C5-Azo-dpa は、水中において γ-CyD に 2 分子包接された(15C5-Azo-dpa)2/γ-CyD 複合体となることが Job plot による包接比の算出より確認している。興味深いことに、この複合体は、Zn2+、K、CO32−または CH3CO2 が存在している時にのみ、二量体ねじれ構造をとることが ICD スペクトルおよび NOESY 測定により明らかになった。特に、CO32 架橋によって大きなねじれ構造を生じて、スプリット型の顕著な誘起円二色性が現れる。このように、分子認識プローブと CyD を組み合わせた超分子複合体は、多点で分子を認識することによって、分子の空間配置を制御することができ、多様な分子構造をとり得る。この包接構造変化を光情報として取り出すことで、多様な応答機能を有する化学センサーの開発が期待できる。

 次に、糖の検出を目的として、分子認識部位をクラウンエーテルからフェニルボロン酸に変えた分子認識プローブ(C1-APB)を設計した(図 4)) 11) 。フェニルボロン酸は、糖分子などのシスジオールを有する化合物と可逆的な環状エステルを形成することが広く知られている。一般的に、フェニルボロン酸はフルクトース選択性であるが、周囲の環境を変化させることで、その選択性を制御できる。まず初めに、C1-APB と CyD との超分子複合体形成について検討したところ、C1-APB は単独では水中で自己会合してほとんど蛍光を発しないが、β-CyD を添加すると、水中でもピレン由来のモノマー蛍光が著しく増加した。 C1-APB と CyD の包接挙動について光誘起電子移動(PET)の緩和時間を調べたところ、C1-APB 単独や α-CyD 共存下に比べて β-CyD 共存下でのみ、緩和時間が 2〜3 倍長くなった 12) 。これは、C1-APB のピレン部位が β-CyD に包接されて超分子複合体を形成していることを示している。 C1-APB と β-CyD との超分子複合体形成によって C1-APB の水中での自己会合が抑制されたことに加えて、ピレン周囲の環境が疎水場におかれて水による消光が抑えられたことで、モノマー蛍光が増加することが明らかになった。この C1-APB/β-CyD 複合体の糖応答挙動について評価すると、フルクトース存在下では pKa の値が 7.95 から 6.06 へとシフトした。この pKa の低下により、中性条件下において糖の添加による蛍光強度の増加が見られ、中性条件下での糖の検出が可能となった。この C1-APB/β-CyD 複合体では、ピレン蛍光団が電子供与体、フェニルボロン酸が電子受容体となっている。C1-APB/β-CyD 複合体は中性条件下、糖が存在しない状態ではピレン蛍光団から酸型(中性型)のフェニルボロン酸受容体への PET により消光しているが、糖とフェニルボロン酸のエステル形成によって電子受容性が減少し、PET に基づく消光が阻害されたことで、蛍光が回復する応答機構になっている。

 さらに、C1-APB と γ-CyD の二級水酸基側の 3 位をアミノ化した 3-NH2-γ-CyD を用いてその糖認識機能について評価したところ、興味深いことに C1-APB/3-NH2-γ-CyD 複合体はグルコースに高い選択性を示すことを明らかにした(図513) 。C1-APB/3-NH2-γ-CyD 複合体のグルコース認識機能を解明するために、γ-CyD の一級水酸基側の 6 位をアミノ化した 6-NH2-γ-CyD について同様に糖認識機能を評価したところ、アミノ化していない γ-CyD と応答がほぼ一致した。これらの結果より、C1-APB の糖認識部位であるフェニルボロン酸部位は β-CyD の時と同様に 6 位の一級水酸基側ではなく、3 位の二級水酸基側にあることがわかる。このことから、フェニルボロン酸と糖の結合形成に加えて糖と 3-NH2-γ-CyD のアミノ基との間に静電相互作用が働き、多点で相互作用することによってグルコースを認識していると考えられる。

 一方、図 6 のような BA-Azo を γ-CyD に包接させた BA-Azo/γ-CyD 超分子複合体の糖応答挙動について調べたところ、グルコース存在下で ICD スペクトルに包接構造変化による π-π * 遷移由来のスプリット型コットン効果が観測され、紫外可視吸収スペクトルにおいても、グルコース存在下で極大波長の短波長シフトが観測された) 14) 。BA-Azo の γ-CyD への包接挙動を調べたところ、BA-Azo は γ-CyD に 2 分子包接され、BA-Azo 同士が平行配置でダイマー形成した際のアゾ官能基間の励起子相互作用に起因する超分子応答を示していることが明らかになった。このことから、γ-CyD に包接された 2 分子の BA-Azo でグルコースを認識していることが分かった。以上のように、分子認識プローブを超分子 CyD 複合体として多点認識させることによって、糖応答の選択性を容易に制御できる。

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4.デンドリマーを用いた分子認識システム

 デンドリマーは規則的に分岐を繰り返す樹木状の高分子である。 このような特徴的な構造を有することから、デンドリマーは次に示すような他の高分子には見られない種々の特徴を持つ。@高分子にもかかわらず、分子量分布が非常に狭い、均一な分子量を持つ分子である。A末端に反応性の官能基を多数有していることから、デンドリマー末端を修飾することで多点認識機能を持った化学センサーの設計が期待できる。そこで、デンドリマー末端にアミノ基を有するポリアミドアミン(polyamidoamine, PAMAM)デンドリマー表面に、結合部位としてカルボン酸基、分子認識部位としてフェニルボロン酸を有する還元活性ルテニウム錯体 [RuII (acac) 2(4-Bpy)(4-Cpy)](Hacac: acetylacetone, 4-Bpy: 4- boronic pyridine, 4-Cpy: 4-carboxylic pyridine)を静電相互作用により集積させ、糖の電気化学的検出を行った(図 715) 。糖認識機能の評価には、高い電流感度と電位検出能を有する微分パルスボルタンメトリー(DPV)法を用いている。フルクトースを [RuII (acac)2(4-Bpy)(4-Cpy)]/PAMAM-G2 溶液に添加した時、元の[RuII (acac)2(4-Bpy)(4-Cpy)]/PAMAM-G2 の波の負電位側に新たなピークが生じる。グルコースやガラクトースを添加した時には電位シフトは小さく、電位シフトを見ることによって選択的にフルクトースを検出できる。また、PAMAM デンドリマーの世代を変えて同様の測定を行ったところ、世代の低い方が糖に対する応答能が高くなった。これは用いた錯体がシス型で、糖の認識部位であるフェニルボロン酸が PAMAM デンドリマーの内側に向いているため、ターゲットである糖分子がボロン酸部位に近接でき程度の間隙が必要であることを示している。

 また、筆者らはデンドリマー表面上へアニオン性のフェニルボロン酸を集積させた化学センサーの開発も行っている 16) 。分子認識部位にフェニルボロン酸基を持つアゾプローブ(1-BAzo-NP)を合成し、中性条件下において PAMAM デンドリマーの表面に静電的に自己集積させた超分子複合体である(図 8)。 1-BAzo-NP はリン酸バッファー中、中性条件下においてフルクトース、グルコースやガラクトースには殆ど応答を示さない。しかし、この溶液中に PAMAM デンドリマー第 4 世代(PAMAM-G4 )を添加すると、PAMAM デンドリマー表面に 1-BAzo-NP が集積し、特異な糖応答機能が現れる。例えば、 1-BAzo-NP/PAMAM-G4 複合体は、グルコースに応答して凝集体を形成した。この凝集体形成は長波長側の吸光度変化(濁度)の測定で評価できる。 1-BAzo-NP を PAMAM-G4 デンドリマーの表面上に最密に自己集積させた時に、この濁度が最も高くなることが明らかになった。加えて、PAMAM デンドリマーの世代を第 3 世代から第 5 世代まで変化させて同様の測定を行ったところ、応答する単糖の種類が PAMAM デンドリマーの世代数に応じて変化した。興味深いことに、 1-BAzo-NP/PAMAM-G5 では、ガラクトース選択的な応答が起こる。これらの結果は、PAMAM デンドリマー表面における 1-BAzo-NP の集積密度を制御することによって、糖認識選択性も制御できることを示している。

 さらに筆者らは、カルボン酸末端を有するフェニルボロン酸型アゾプローブ(B-Azo-Cb)と PAMAM デンドリマー末端のアミノ基を化学結合によって結合させた B-Azo-Cb/PAMAM 複合体も設計した(図 917) 。この B-Azo-Cb/PAMAM 複合体を包埋した酢酸セルロース薄膜を作製し、種々の糖の輸送能を調べたところ、B-Azo-Cb/PAMAM 複合体を酢酸セルロース薄膜に包埋した時の糖の輸送能は、溶液中での B-Azo-Cb/PAMAM 複合体の糖選択性と一致した。これは、フェニルボロン酸を介した固定膜型の糖輸送が起こっていることを示している。また、フェニルボロン酸型アゾプローブを静電的に PAMAM デンドリマー表面に自己集積させた際の結果と同様に、用いた PAMAM デンドリマーの世代によって糖の輸送能に違いが現れることも明らかにしている。これらの結果は、フェニルボロン酸型プローブ/PAMAM 複合体を用いて、そのデンドリマーの世代数やフェニルボロン酸型プローブの修飾密度制御によって、糖の選択的な検出や分離への応用の可能性を示したものである。

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5.直鎖状ポリマーを用いたマクロな分子認識システム

  多点相互作用は天然の系において結合の親和性や選択性を高めるためによく用いられている戦略である。このような生命の系に倣った、人工系において多点の弱い相互作用を組み合わせたバイオインスパイアードシステムの開発が進んでいる。序論にて述べたようなタンパク質の高次構造形成に倣って分子設計されているものに「ナノゲル」がある。ナノゲルは多糖などの直鎖状の親水性高分子に疎水基や機能性官能基を側鎖に少数導入した分子からなり、その側鎖を架橋点にして自己組織的にネットワーク化することで、粒径数十 nm のナノ粒子を形成する。筆者らは、多糖の側鎖にビタミン B6 をわずかに修飾したビタミン B6 置換多糖を設計した(図 1018),19) 。このビタミン B6 置換多糖を用い、中性条件下においてビタミン B6 のアルデヒド基とタンパク質中のアミノ基とを Schiff 塩基形成させることによって、タンパク質を架橋点としたタンパク質架橋ナノゲルを開発した。ビタミン B6 に亜鉛イオンを配位させ、Schiff 塩基形成を促進することでカチオン性/アニオン性タンパク質のいずれともナノゲルを形成することができる。また、興味深いことに、このタンパク質架橋ナノゲルは元のタンパク質の高次構造を保持しており、ナノゲルへの官能基修飾によって細胞内導入効率も向上し得ることから、タンパク質デリバリーキャリアとしての応用展開が期待されている。

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6.おわりに

 本稿では、超分子複合体形成を利用した多点分子認識システムについて、筆者らの研究を中心にまとめた。現在、超分子複合体形成による分子認識を利用して、金属イオンや生体分子の選択的な検出・分離システムの開発や、病原性細菌のようなマクロな系の簡易・迅速な検出法の開発を進めている。初めに述べたように、ある分子が他の分子を 1 : 1 で認識して応答する比較的単純な系に基づくホスト―ゲスト化学や分子認識化学から、生命が進化の過程で創り出した、高度で緻密な多点認識型の分子認識系を人工的な系で構築し、それを凌駕する機能を創成することがこれからの課題であると考えられる。このような生命のしくみに倣ったバイオインスパイアードシステム、すなわち多点認識型の分子認識システム開発を進めていくことが、次世代のナノマテリアルや機能性材料の開発を行っていく上で益々重要になると思われる。

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著者プロフィール
氏名 土戸 優志(Yuji Tsuchido)
所属 上智大学理工学部 特別研究員
連絡先 〒102-8554 東京都千代田区紀尾井町 7-1
TEL:03-3238-3371、FAX:03-3238-3361
E-mail:y-tsuchido@sophia.ac.jp
出身学校 東京医科歯科大学大学院生命情報科学教育部高次生命科学専攻
学位 博士(理学)
専門 分子認識、ナノバイオマテリアル、超分子化学

 

氏名 早下 隆士(Takashi Hayashita)
所属 上智大学理工学部物質生命理工学科 教授
上智大学 学長
連絡先 〒102-8554 東京都千代田区紀尾井町 7-1
TEL:03-3238-3372、FAX:03-3238-3361
E-mail:ta-hayas@sophia.ac.jp
出身学校 九州大学大学院工学研究科合成化学専攻
学位 工学博士
専門 分子認識、超分子化学、分析化学

 

 

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