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ARP(Aldehyde Reactive Probe)を用いたカルボニルタンパク質の解析

株式会社同仁化学研究所 ア山 順次

 活性酸素などの酸化ストレス分子種は、生物が生命活動を営むことによって必然的に発生するものであり、避けることのできないものである。そのような酸化ストレスに対し、生体は酸化ストレス分子種を消去するための抗酸化システムを機能させ、生体の酸化還元状態のバランスを取っている。しかしながら、何らかの要因で酸化ストレスのバランスが崩れると、生体組織すなわちタンパク質や脂質、DNA の酸化的損傷を引き起こす。このような酸化的損傷は、さまざまな疾病や老化などに関与していると考えられており、疾病の診断や治療、老化などの酸化ストレスマーカーとして注目されている。
 タンパク質のカルボニル化は、主要なタンパク質損傷の一つである。カルボニルタンパク質は、アミノ酸側鎖の酸化的分解や脂質の過酸化反応によって生じるアルデヒド化合物の付加によって生成されることが確認されている。カルボニルタンパク質の一般的な解析法の一つとして 2,4-dinitrophenylhydrazine (DNPH)法が挙げられる。本手法は、カルボニルタンパク質のアルデヒド基を DNPH でラベル化し、その吸収からアルデヒド基を定量、あるいは抗 DNPH 抗体を用いてアルデヒド基を検出する方法であり、一般的に広く用いられている(Fig. 1)

fig.1

 しかしながら本手法は、酸性条件下での反応が必要であること、形成されたヒドラゾン結合が不安定であること、またそのために、より安定したヒドラジン誘導体への還元ステップが必要であることなどの問題点がある。そこで今回のトピックでは、 DNPH 法に代わる新規のカルボニルタンパク質の解析法について紹介したい。
 ARP (Aldehyde Reactive Probe) は、ヒドロキシルアミンを有するビオチン化合物であり、アルデヒド基と中性条件下で効率的に反応し、非常に安定な結合を形成する。本試薬は損傷 DNA の修復過程において生じる脱プリン/脱ピリミジン部位(AP site)を検出する試薬として知られているが、近年 ARP をカルボニルタンパク質の解析に利用した例が報告されている (Fig. 2)

fig.2


 Maier らは、ARP を用いてカルボニルタンパク質をラベル化し、ペルオキシダーゼ標識アビジンを用いたウェスタンブロット検出、さらに MS 解析によるカルボニルタンパク質の同定を行っている 2), 3)。ARP を用いた解析の結果、ラットのミトコンドリアタンパク質において、種々のカルボニルタンパク質が確認されている。また、若年ラットと老年ラットのカルボニル化の程度を比較した結果、いくつかのタンパク質において月齢に依存したカルボニル化の増加が観察され、カルボニル化が老化に関与していることを示している。
 Slade らは MCF7 乳ガン細胞にて脂質過酸化由来のアルデヒドである DODE (9,12-dioxo-10(E)- dodecanoic acid)のタンパク質修飾について報告している (Fig. 3)。DODE は、リノール酸の過酸化物から生成する不飽和アルデヒド化合物であり、HNE (4-hydroxy-2(E)-nonenal)や ONE (4-oxo-2(E)-nonenal)と同様にタンパク質に付加することが知られている。彼らは ARP を用いてカルボニルタンパク質を網羅的に解析し、MCF7 乳がん細胞中において DODE が付加したタンパク質が多く生成していることを明らかにしている。本研究結果は、DODE 修飾タンパク質が重要な酸化ストレスマーカーとなりうることを示す最初の報告例である。

fig.3

 以上のように、ARP を用いたカルボニルタンパク質の解析法によって新しい研究結果が報告され、その有用性が示されている。ARP を用いたこの手法は一般的な DNPH 法と比べ、@ラベル化のステップが簡便である、A形成された結合が安定である、Bビオチン-アビジン相互作用を用いることで精製、濃縮および検出が容易である、などの利点を有しており、カルボニルタンパク質解析の新しい研究ステージを提供するものと期待される。

 

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参考文献

1) P. G. Slade, M. V. Williams, V. Brahmbatt, A. Dash, J. S. Wishnok, S. R. Tannenbaum, Chem. Res. Toxicol., 2010, 23 (3), 557.

2) W-G Chung, C. L. Miranda, C. S. Maier, Electrophoresis, 2008, 29, 1317.

3) J. Chavez, J. Wu, B. Han, W-G Chung, and C. S. Maier, Anal. Chem., 2006, 78, 6847.

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