Q & A

生菌選択的蛍光染色試薬:CTC

Q1 CTCが蛍光を発する原理を教えてください。

A1 CTCはテトラゾリウム塩類という化合物に属し、細胞毒性試験などで使用されているMTTに類似した化合物です。細菌細胞内に取り込まれ、NADPH等により還元されて、CTFというホルマザンになります。
CTFはB励起の波長により630nmの蛍光を発することから、この蛍光により細胞の染色状況を確認できます。

 

Q2 CTCおよびホルマザン(CTF)の光学特性を教えてください。

A2 CTCは400nmよりも長波長側には吸収を持たず、無色の溶液で、還元されてCTFとなり450nm付近に吸収極大をもちます。
CTFは溶液として溶けた状態では蛍光を発せず、固体として析出した状態でのみ蛍光を発します。
450nm付近の励起により、630〜640nmの蛍光が確認できます。
蛍光顕微鏡であれば、B励起で蛍光観察可能です。
フローサイトメトリーでは488nmのArレーザーで励起し、605〜725nmのチャンネルで検出している報告もあります。

Q3 CTCと他のテトラゾリウムとの比較データはありますか。

A3 NTBやINTと比較した報告がありますが、NTBやINTのホルマザンは蛍光特性がありません。
NTBはシアン化合物の存在下では、CTCの4倍ホルマザンが細胞内に取り込まれることが確認されています。
INTとの比較では、INTではホルマザン濃度が2 mmol/lで極大となり、3 mmol/lでは極大値の70%、4 mmol/lでは60%程度に吸光度が低下します。一方、CTCでは2〜6 mmol/l濃度範囲でほぼ一定の光学強度を示し、その範囲での光学強度の差は約15%程度です。

Q4 細菌類を染色するということですが、どの細菌も同じように染色できますか?

A4 全ての種が染色できる訳ではなく、染色出来ない種もあると言われています。
下記の菌類は論文で染色が報告されております。

グラム陽性菌(好気性)
Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)
Staphylococcus epidermides
(表皮ブドウ球菌)
Bacillus megaterium
(巨大菌)、
Listeria monocytogenes(リステリア菌)

グラム陰性菌(好気性)
Pseudomonas putida(プチダ菌)
Pseudomonas syringae、Pseudomonas aeruginosa
(緑膿菌)
Campylobacter jejuni、Campyrobacter coli、Klebsiella pneumoniae(肺炎杆菌)
Enterobacter Cloacae、Vibrio cholerae
(コレラ菌)
Salmonella、Escherichia coli(
大腸菌)

グラム陽性嫌気性菌が、比較的染色しにくいともいわれておりますが、使用するCTCの純度や不適切な条件でのストック溶液の保存による分解が要因という可能性もあります。

Q5 細菌以外の哺乳類細胞も染色できますか。

A5 哺乳類細胞は染色されません。哺乳類細胞のviability assayを行った例がありますが、その際には電子メディエーターとの併用が必須で、かつ細胞外でホルマザンを生じます。つまり、CTCが哺乳類細胞内では単独で還元されないため、細胞が染色されません。

Q6 菌が存在する溶液中にCTCを添加するだけで染色できるのですか?

A6 細菌の懸濁液にCTC溶液を添加し、室温で0.5〜2時間程度インキュベートすることで、細菌を染色することができます。

Q7 CTCは細菌のどこを染色しますか?染色された色素は、どのくらい保持されるのでしょうか?

A7 細菌細胞内でホルマザンが生成沈澱して、細胞内を染色します。
保持時間は正確にわかりませんが、CTCで染色を行った後にFISH法を行っている例があり、染色して数時間は観察する上 で問題ないと考えられます。

Q8 CTFとなり沈澱するこということですが、毒性はありませんか?

A8 CTCが高濃度(6 mmol/l以上)であると毒性が生じると記している報告があります。

高濃度でインキュベート時間を長くすると、細菌は死ぬことがあります。CTCの還元生成物であるCTFが結晶として析出し、細菌の細胞膜を壊すためです。この現象はCTCだけでなく、非水溶性のホルマザンを生成するMTTなどのテトラゾリウム類でも起こります。
したがって、適切なCTC濃度、インキュベート時間の検討が必要です。

Q9 どのくらいの菌数を測定できるのですか?

A9 菌数の規定はありませんが、細菌があまり多すぎると顕微鏡観察がしにくくなります。視野中100個程度までの細胞数を数えるのが、一般的です。

Q10 CTCは溶液状態で安定ですか? どの程度の期間保存できますか?

A10 CTCは水溶液中で容易に加水分解を受け、細菌の染色が出来なくなります。そのため、用時調製でお使い下さい。なお、アルカリ性では分解が早く、弱酸性では比較的安定であることが分かっています。

Q11 基本的な使用方法があれば教えてください。

A11
細菌懸濁液
↓←CTC水溶液(終濃度: 0.5〜5 mmol/l)
インキュベート(遮光、5分〜24時間)

フローサイトメーターで検出

または、0.2 μmブラックメンブランフィルターで細菌を捕集し、乾燥後、蛍光顕微鏡観察する。
CTCで染色した後ホルマリンで固定し、DAPIで二重染色を行う例も多くあります。
(詳しくは参考文献2)をご覧下さい)

Q12 VNC状態に関係なく測定できますか?

A12 VNC状態にあっても無くても、呼吸活性を有する細菌であれば染色することができます。ただし、蛍光強度はVNC状態にある場合弱く、その状態を脱すると強くなります。(*:p25参照)

Q13 CTCを染色に用いるメリットは?またデメリットは?

A13
メリット
・VNC状態にある細菌でも短時間で検出することができる。
・生じるホルマザンが蛍光性なのでINTに比べ感度が高く、バックグラウンドが低い。

デメリット
・溶液状態では保存安定性が悪い。 ・細菌の種類により染色されやすさが異なるという報告がある(測定に使用したCTCの純度を考慮していないため、取り込まれやすさがCTCの純度によって違ってきている可能性もあります。

Q14 CTCと他の染色剤との併用は可能ですか?

A14 DAPI、DiBAC4(3)、FITC標識抗体などと併用した報告があります。
DAPIは全細胞を染色し、CTCは生細胞のみを染色しますので、併用することで生菌と死菌の割合を確認できます。
DiBAC4(3)はVNC状態の菌をフローサイトメトリーで確認するのに併用されています。VNC状態の細胞は脱分極しているため、DiBAC4(3)が取り込まれやすくなり蛍光は強くでます。細胞がVNC状態を脱するとこの蛍光は弱くなり、その一方でCTCは細胞に還元され易くなって蛍光が強くなります。これを利用して抗生物質の作用による細胞のVNC状態の変化をCTCとDiBAC4(3)を併用して観察している報告があります。
また、FITCを標識したO-157:H7抗体とCTCを併用することで、生きたO-157を蛍光顕微鏡とフローサイトメトリー法で検出している報告があります。

参考文献

1) R. A. Bovill, J. A. Shalloross and B. M. Markey, メComparison of

the Fluorescent Redox Dye 5-Cyano-2,3-ditolyltetrazolium Chloride

with p-Iodonitrotetrazolium Violet to Detect Metabolic Activity in Heatstressed Listeria monocytogenes Cellsモ, J. Appl. Bacteriol., 1994, 77 (4), 353.

2) N. Yamaguchi, M. Sasada, M. Yamanaka and M. Nasu, メRapid

Detection of Respiring Escherichia coli O157:H7 in Apple Juice, Milk,

and Ground Beer by Flow Cytometryモ, Cytometry A, 2003, 54A, 27 .

3) M. T. E. Suller and D. Lloyd, メFlow Cytometric Assesment of the

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4) G. Schaule, H. C. Flemming and H. F. Ridgway, メUse of 5-Cyano-2,3-ditolyl Tetrazolium Chloride for Quantifying Planktonic and Sessile Respiring Bacteria in Drinking Waterモ, Appl. Environ. Microbiol., 1993, 59(11), 3850.

5) D. J. Reasoner and E. E. Geldreich, メA New Medium for the Enumeration and Subculture of Bacteria from Potable Waterモ, Appl.

Environ. Microbiol., 1985, 49, 1.

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7) A. W. Coleman, メEnhanced Detection of Bacteria in Natural Environments by Fluorochrome Staining of DNAモ, Limnol. Oceanogr.1980, 25, 948.

8) E. Severin, J. Stellmach and H.-M. Nachtigal, メFluorimetric Assay of Redox Activity in Cellsモ, Anal. Chim. Acta, 1985, 170, 341.

9) A. Kitaguchi, N. Yamaguchi and M. Nasu, メEnumeration of Respiring

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10) G. G. Rodriguez, D. Phipps, K. Ishiguro and H. F. Ridgway, メUse of a Fluorescent Redox Probe for Direct Visualization of Actively Respiring Bacteriaモ, Appl. Environ. Microbiol., 1992, 58 (6), 1801.