ケミストからみたポストゲノム10

〜プロテオミクスにおける質量分析〜

九州大学工学研究院応用化学部門

片 山 佳 樹


1. はじめに

 これまでにも繰り返し述べてきたように、ポストゲノム研究においては、タンパク機能を研究するプロテオミクスが中心課題である。タンパクについての研究では、まずタンパクの同定、発現量変化、翻訳後修飾とその量的変化、タンパク間相互作用などを明らかにしなくてはならない。しかし、遺伝子と異なりタンパクは増幅することが困難であるから、その分析は、感度、分解能、確度が要求される。質量分析は、得られる分析値がデジタルであり、しかも高感度な分析であるから、この種の研究には非常に有効である。もちろん、非常に複雑な混合物であるプロテオームのような研究に質量分析法を適用するには、種々の制約が存在した。しかし今では、これらを克服するための種々の手法が開発され、質量分析はプロテオミクスには不可欠な手段となっている。今回は、同位体タグに代表されるような、プロテオミクスにおける新しい質量分析法に関してご紹介する。

2. 質量分析について

 質量分析においては、対象はまず何らかの手法でイオン化され、そのイオンの質量/荷電比(m/z)とその質量のイオン量を計測する。したがって質量分析は、イオン化とイオン計測法により種々の組み合わせが存在し、それぞれ特色がある。イオン化法では特にElectrospray ionization(ESI)とMatrix assisted laser desorption ionization (MALDI)が有用である。ESIは、タンパクの溶液を微細なノズルから噴射しイオン化する方法で、MALDIでは、マトリックスとよばれる物質と混合して測定基板上に結晶化させ、照射したレーザー光をマトリックスが吸収することでタンパクを一緒に気化させイオン化する。前者では、溶液をそのまま用いることができ、液体クロマトグラフィーのような精製法を直接組み合わせる際に有用である。一方、MALDI法は、測定試料の断片化(フラグメント化)や多価イオン化が起こりにくく、解析が容易である。イオン化された試料を解析するアナライザーとしては、イオントラップ法、飛行時間法(TOF)、四重極法、フーリエ変換法などがある。イオントラップは、感度が高く安価である反面、捕捉されるイオン数が限られるため、正確さが他の方法に比べ劣る。フーリエ変換型では、高真空下、高磁場でイオンを捕捉し、感度、確度、分解能に優れ、ダイナ

ミックレンジも広いなどの利点を有するが、高価で操作が複雑である。TOFや四重極法は、感度、確度、分解能、操作性などの観点から最も利用例が多い。TOFは、MALDI法と組み合わせて用いられることが多く、確度、感度、分解能に最も優れているため、精製したタンパクの同定には極めて有用である。一方、液体クロマトのような精製法と組み合わせる場合には、いちいちフラクションを基板上に結晶化させる必要があり、自動化が難しく、ESIの方が優れているともいえる。四重極法は、ESIと組み合わされることが多いがMALDIとの組み合わせでも用いられる。特にタンパクの同定では、後述するようにプロテアーゼで限定消化する変わりに、質量分析計内でタンパクを断片化し、各フラグメントをさらに質量分析で解析していくために、アナライザーを2つ連結し、その間に、高エネルギーのアルゴンなどの気体を衝突させてタンパクを断片化させるための衝突誘起解離装置(CID)を設けたタンデム型質量分析装置が用いられる。

3. 質量分析によるタンパクの同定

3. 1 ペプチドマスフィンガープリント1−5)

 ある状態における細胞が有する全タンパク質の発現パターン(プロテオーム)は、2次元電気泳動で各タンパクを分離することで評価できるが、各スポットのタンパクを同定するのに通常、質量分析(特にMALDI-TOF)が用いられる。もちろん、2次元電気泳動で分離されたタンパクをそのまま質量分析しても得られる情報は少なく、同定には至らない。そこで、タンパクを特定のプロテアーゼで限定消化すると、得られるペプチド断片の質量のセットは各タンパクに固有(フィンガープリント)であり、そのデータベースを作成すれ ば、同定に用いることができる。この場合、AspNとLysCなど異なるプロテアーゼで切断したプロフィールを複数用いると精度は向上する6)

 しかしながら、2次元電気泳動で分離されたスポットは、必ずしも単一のタンパクである訳ではなく、むしろ複数のタンパクの混合物である場合のほうが多い。その様な場合の解決法としては、酸素の安定同位体を用いる方法がある。例えば2つの異なる状態の細胞のプロテオームをそれぞれ2次元電気泳動分離し、それぞれから得られる標的スポットをプロテアーゼで限定分解する際に、片方は通常の水中、もう一方は、18Oを含む水(H218O)中で分解すると、各断片のC末は、16Oあるいは18Oが取り込まれ同位体標識される(Fig.1)7)。この2つのサンプルを混合すると、各ペプチド断片は、質量が2つずつ離れた2重線で得られる。スポット中に複数のタンパクが含まれていても、タンパクによって2つの細胞の状態間での発現量変化は異なるので、各ペプチド断片の存在比が同じものが同一のタンパク由来の断片となり、識別可能となる。酸素同位体標識は、後述の配列分析に用いるペプチドシーケンスタグとしても利用できる。

 タンパクを酵素で限定消化する方法は、最も一般的な方法であるが、酵素類はタンパクがpmolレベルまでは迅速に消化できるが、fmol以下になると非常に分解速度が小さくなってしまうため、得られる試料が極めて少量の場合は、酵素限定消化は困難になる。この様な場合には、直接質量分析計の中でCIDなどの手法により分解させる方法も提唱されている8)

3. 2 配列分析(ペプチドシーケンスタグ)9)

 タンパクの同定においては、酵素消化などで得られるペプチドフィンガープリントだけでは情報量が少ない。そこで、タンデムマスを用い、初めのアナライザーで解析後、特定のペプチドイオンを選び、CIDでさらに分解後、そのペプチドの配列を解析することでさらに情報量を増やすことができる。すなわち、断片化は各アミノ酸でランダムに起こるから、最も質量の近い断片間の質量差が、各アミノ酸に由来するため、配列が分かる。しかし、CIDで分解されたフラグメントは、ペプチドのN末由来のb系列フラグメントとC末由来のy系列フラグメントが混在しているため、両者を区別しなければ配列解析は極めて困難である。この様な場合に、b系列とy系列を識別するためのタグがシーケンスタグである。前述の18Oを用いる標識もそのひとつである(Fig.1)。すなわち、CIDスペクトルは、18O標識を用いることで、y系列フラグメントのみが2重線で得られるため、容易に配列解析が可能となる。一方、b系列、すなわちN末側の配列解析をするためのN末の同位体標識としては、化学修飾を利用する方法が報告されている。この場合、リシン残基への修飾を抑制するため、まずタンパクを無水コハク酸で処理し、リシン残基側鎖のアミノ基を潰し、限定消化後、一方の細胞由来のタンパク試料はニコチン酸活性エステルでN末を標識し、別の細胞由来のタンパク試料は、芳香族水素を重水素化したニコチン酸活性エステル(D4NicNHS)で標識して、両試料を混合する。これをタンデムマスで分析すると、CIDスペクトルは、b系列のみが質量が4異なる2重線となる(Fig.2)

 

4. 定量プロテオーム(安定同位体タグ標識)

 細胞は周囲の環境や情報の変化に対応して機能変化することで生命を維持している。また、疾患細胞は、それ自体正常細胞と機能が変化している。この様な細胞の2つの異なる状態における細胞の機能変化に伴う各タンパクの発現量や翻訳後修飾量がどの程度変化しているのかを調べることは、機能プロテオミクスの中心課題である。これを質量分析で調べる場合、質量分析の定量性の乏しさや、計測毎のシグナル強度のばらつきが無視できないため、2つの状態の試料を別個に計測して比較することは不可能である。そこで、両者を混合して直接比較することが必要となるが、相当する各タンパク(フラグメントペプチド)を見分けるため、質量に差をつける必要が生じる。この目的のため、開発されたのが安定同位体標識法である。

4. 1 in vivo同位体標識(Fig.3)

 細胞を培養する際に一方の培地に2H、15N、13Cなどを含むものを用い、他方は通常の同位体を用いると、細胞中のタンパクは、それぞれの同位体で標識されるので、両者を混合しても、同一タンパクが質量分析で識別可能となり、質量スペクトルのピーク高さの比から存在比が評価できる10-12)。この様な手法では、培地中の窒素の同位体標識は、最も一般的である。一方、Ongらは、重水素化ロイシン(d3Leu)を標識に用い細胞中のタンパク発現量変化を評価する手法をSILAC (Stable Isotope Labeling by Amino acids in Cell Culture)と名づけている13)。同様の手法は数多く報告されている。すなわち、重水素化したメチオニン(d3Met) 14)、チロシン(d2Tyr) 12)を用いたり、セリン(d3Ser) 15)を用いてヒストンのリン酸化量変化を同定したり、あるいは、13Cで標識されたアルギニン(13C6Arg)やリシン(13C6Lys)を用いて酵母のプロテオーム解析をした例がある16)In vivo標識は簡単であり、後述する翻訳後修飾の解析にも有効であるが、高価であり、動物への適用ができないといった制限がある。

4. 2 Isotope-coded Affinity Tag (ICAT)法

 In vivo同位体標識の制限を克服するためには、タンパクを化学的に安定同位体で標識する必要がある。この様な戦略として最初に開発されたものがAebesoldらのICAT法である(Fig.4(a))17)。ICAT法では、チオール標識用ビオチン型標識剤のリンカー部分の水素8個を水素あるいは重水素としたものを使用する。すなわち、2つの細胞や組織からの試料から別個にタンパクを抽出後、それぞれH型あるいはD型のビオチン標識剤で標識後、両試料を混合してトリプシンなどで限定消化する。その後、アビジンカラムでビオチン標識されたペプチド(すなわちシステインを含むペプチド断片)のみを取得して質量分析する。通常のタンパク混合物では、膨大なペプチド断片が生じ、各タンパクを精製してからでないと、存在比の比較ができる状態ではないが、ICAT法ではシステインを含むペプチドに限定されるため、混合物内における種々のタンパクの存在比を比較可能となる。各タンパクの同定は、CID分解により行う。ICAT法は、動物や真核生物のプロテオーム分析を可能とするだけでなく、2次元電気泳動などによるタンパクの精製を必要としないという利点も有する。ヒトミエロイド表面タンパクの分化による変化18)や神経細胞のタンパク発現量の薬物(カンプトテシン)投与による影響19)、酵母のメタボローム解析20)など多くの適用例が報告されている。

 ICAT法は、画期的な方法であるが、重水素化したビオチンが標識された物は、そうでないものに比べ、液体クロマトなどによる分離を行った場合、流出プロフィールが異なるという欠点がある21)。また、この様に大きなタグを標識すること自体が、CIDによるペプチドの同定の正確さに影響する。この様な問題に対しては、標識剤をできるだけ小さくすることが好ましい。Applied BioSystems社は、最近、9つの13Cで標識したビオチン標識剤を開発したが、この標識剤は、最終的に酸処理でリンカー部分から切断できるようになっている22)。また、ビーズ上でシステインを含むペプチドを捕捉して、光や酸処理で小さな同位体タグだけを残してペプチドを開放できるシステムも報告されている(Fig.4(b))23,24)。ビーズを用いることで、単一ステップで含システインペプチドの精製と同位体標識を行えること、固相系にペプチドを共有結合できることで洗浄をより完全に行え、システインを含まないペプチドの非特異吸着の問題を解決できるなどの利点がある。ただし、いずれにしても、同位体標識の効率が2つのサンプル間で同一でなければ量的比較は不可能であり、標識効率をいかに完全にできるかが大きな問題である。この問題は、ICATに限らず、全ての化学修飾法に共通の問題でもある。

4.3 その他の化学的同位体標識法

 ICAT法は、システインを含むペプチドにしか適用できない。そこで、H型とD型の酢酸の活性エステルを用いペプチドの1級アミンをアセチル化したり25)、H型とD型のメタノールでペプチドのカルボキシル基をエステル化したりする方法26)が報告されている。後者では、アニオン性のカルボキシル基がエステル化されることで、質量分析でイオン化されるペプチドが増加して計測を容易にする効果もある。また、H型とD型の無水コハク酸を用いる方法も報告されており、これらの手法は、Global Internal Standard Technology (GIST)と呼ばれる27)

5. タンパク間相互作用解析

 例えば、あるタンパクをコードする遺伝子を発現ベクターに組み込み、さらにその末端に非常に短いエピトープタグを融合して細胞に導入し、発現後、細胞を溶解して、エピトープタグに特異的な抗体で免疫沈降して、当該タンパクを単離すると、それに結合したタンパクも同時に沈降してきており、これを質量分析することによって、そのタンパクに相互作用するタンパクを解析することができる(Fig.5(a))28)。この方法では、細胞内での相互作用を直接評価できるため、種々の状態での細胞内での相互作用の変化を捉えることも可能である。また、これに先の同位体標識法を適用して、種々の状態間での相互作用の変化を量的に比較することもできる。例えば、細胞をそれぞれ13Cで標識したアルギニンと通常のアルギニンをそれぞれ含む培地で培養し、片方をEGFで刺激して両試料を混合後、活性化したEGF受容体が自己リン酸化していることを利用して、このリン酸化部分に結合するGrb2のSH2ドメインをGSTに融合したものでアフィニティー分離し、結合するタンパクを同時に得る方法が報告されている10)。この場合、得られる両試料で存在比が異なるタンパクは刺激により受容体に対する結合性が変化したものであることがわかる。

 これら以外の手法としては、タンパク複合体を同位体標識(重水素化)した架橋剤で架橋してしまい、その後、限定消化して架橋されたペプチドを解析することで、相互作用するタンパクの同定と同時に、相互作用するサイトを決定してしまう方法(Fig.5(b))29)や、エピトープタグを連結したユビキチンにシステイン反応サイトを結合し、システインプロテアーゼである脱ユビキチン化酵素の活性サイトにアフィニティー結合させてから、エピトープに対する抗体で免疫沈降させて、未知の脱ユビキチン化酵素を探索する試み(Fig.5(c))30)などが報告されている。

6.翻訳後修飾の評価

タンパクは、遺伝子から発現後、種々の細胞機能に応じて糖化、リン酸化、アセチル化、脂質化などの修飾を受ける。これを翻訳後修飾といい、タンパクの機能に極めて重要な情報であるが、mRNA量を評価する遺伝子チップからは決して解析することができず、プロテオミクスの重要な分析対象である。翻訳後修飾の量的変化を知るには、前述の安定同位体標識の手法が適用できる。すなわち、例えば、in vivo標識で2つの細胞試料を標識して混合すると、2つの異なる試料中における同一タンパクのペプチド断片の存在比は全て同じはずであるが、それが異なるペプチド断片は、翻訳後修飾されたものであると分かる。また、その存在量変化より、修飾量の変化も評価できる。

また、Odaらは、リン酸化されたセリン部位を、塩基存在下でオレフィンとし、エタンジチオールを付加してチオールを導入し、これにチオール反応性のビオチン標識剤を結合してリン酸化セリンを含むペプチドを選択的に濃縮、精製する手法を開発した(Fig.6)31)。これにより、リン酸化サイトの配列まで同定できる。また、ビオチン標識剤として、前述のICAT試薬を用いて、2つの状態の細胞試料間に同位体標識すると、2つの状態間でのリン酸化の程度の変化を評価することができる。リン酸化ペプチドは、金属錯体カラムでも濃縮できるが、この方法では、種々の刺激に伴うタンパクのリン酸化の変化を直接評価できる。

7.細胞内シグナル解析

 個別のタンパクにおけるリン酸化の程度変化を知る代わりに、タンパクをリン酸化する個々のプロテインキナーゼの活性変化を知ると、細胞機能を直接制御している細胞内シグナル活性の変化を知ることができる。我々は最近、種々のプロテインキナーゼに特異的な基質ペプチドを用いることで、2つの状態間にある細胞の特定のプロテインキナーゼ活性変化を直接比較できる手法を開発している(Fig.7(a))32)。即ち、基質ペプチドのN末にリシンを導入し、アミノ末端と側鎖のアミノ基をアセチル化したものと、重水素化アセチル基にしたものを用い、2つの異なる細胞試料を溶解後、各々のライセートの一方に、通常のアセチル化プローブ、もう一方に重水素化アセチル化プローブを添加して所定時間反応後、両溶液を混合して質量分析すると、未反応のプローブと、リン酸化されたプローブがそれぞれ2重線で得られ、そのピーク高さ(正確には面積)から双方の状態間での標的プロテインキナーゼの活性が直接比較できる(Fig.7(b))。例えば、プロテインキナーゼAの場合、これを活性化するフォルスコリン(アデニル酸シクラーゼ活性化剤)処理した場合、確かに本法で活性上昇が見られ、逆に阻害剤であるPKI処理では、活性の低下が認められた(Fig.7(c))。また、CREB由来の遺伝子発現は、種々の薬物処理後の本法での活性測定結果と完全に一致したことから、確かにこの方法により、細胞内の標的プロテインキナーゼ活性変化を評価できることがわかった。

これまでに、プロテインキナーゼCやSrcなどの他のキナーゼに関しても、測定に成功しており、複数のプローブを同時にライセートに添加することにより、複数のプロテインキナーゼ活性変化を同時にプロファイリングできる可能性がある。これまで、細胞内シグナルは単一の活性に関して、その細胞内での詳細な分布と時間変化をモニタリングするプローブの開発に主眼がおかれており、それはもちろん非常に重要なことである。一方、本法は、一度細胞を破砕するため、刺激後、特定時間後の活性の状態しか評価できず、その意味では詳細さに欠ける。しかしながら、例えば、薬物スクリーニングのような、多検体を迅速に評価する場合、この様な手法は、非常に簡便迅速に行え、複数の酵素活性変化を一度に計測して、パターンとしてデータ化できるため、今後の新薬探索や副作用解析、遺伝子機能解析などに、有用な手段を提供するのではないかと期待している。

8.おわりに

 今回は、プロテオミクスにおける質量分析法に関する技術についてご紹介した。質量分析は、測定値がデジタルであり、高感度で迅速に計測が可能であり、タンパクの同定や機能評価には、今後、ますますその重要性が増すものと考えられる。この様な細胞試料中のタンパクを扱う場合、特に、発現量や活性変化を比較、定量する場合、最も重要なことは試料の調製法にある。すなわち、もし、2つの状態の細胞間での試料調製や、標識効率に差があれば、どんなに優れた計測を行おうと、得られる値に全く意味がなくなってしまう。今後は、計測法の開発とともに、試料調製法の開発と情報の共有が必要となるであろう。

 以上、これまで、化学の立場から俯瞰した、ポストゲノム技術についてご紹介してきたが、このシリーズも今回で終わりとなった。ポストゲノム技術は日進月歩であり、ここではご紹介できなかった多くの技術がまだまだ存在する。例えば、in vitroウイルスやリボソームディスプレイなどに代表される遺伝子とタンパクをカップルで扱う手法や、遺伝子の導入法など、新技術を挙げれば枚挙に暇がない。また、これまでにご紹介してきたカテゴリーでも、その後、さらに新しい技術が次々に報告されている。ゲノム研究は、これまで異分野とされてきた多くの分野間の融合を真に必要としている。自分の技術は、全く関係がないと感じている技術が実は、非常に重要な技術に発展する可能性が大いにある。その様な中で、最も必要とされるのは、実際のポストゲノム研究の現状と潜在ニーズを理解しながら、多くの工学的、化学的技術をも理解する目を育てることであろう。また、ゲノム研究は、体力にものを言わせて絨毯爆撃をするような、特にアメリカの産業国家戦略に基づく方法論に関係している。企業規模や体力的に比肩できない我国においては、ゲノム研究の見方を理解し、利用しつつも、さらに効率の良い、独自の技術と方法論を構築していくときに来ているのではないかと愚考する。本シリーズが、ポストゲノム技術を考えるにあたって、些少なりともご参考になれば幸いである。


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