実用的蛍光誘導体化

福岡大学薬学部
山口政俊・能田 均


9.糖類の蛍光誘導体化

糖類の蛍光誘導体化試薬は、大きくポストカラム用とプレカラ ム用に分けられる。

 

9.1. ポストカラム誘導体化試薬

 還元糖に対する試薬として、エチレンジアミン、2-エタノール アミン、2-シアノアセタミド、アルギニン、アリルアミジン類、メ ソ-1,2-ジアリルエチレンジアミン 類など多数のものが使用されている。これらの試薬では、誘導体化はアルカリあるいは中性条 件下、加熱することにより進行する。これらの試薬の中で、2-シ アノアセタミド、BA、p-MBA、p-MOED(Fig. 1)は、還元糖、アミノ糖、ウロン酸、シアル酸に対し高感度である。2-シアノア セタミドは最も広く使用されている(検出限度、0.1-4.2 nmol)が、反応に際し糖の2位の水酸基が関与するため、2-デオキシ糖 とは誘導体を与えない。BA、p-MBA、p-MOEDは、還元糖と迅 速に反応(100℃、3分間)する(検出限度、2-63 pmol)。グアニジンは、還元糖のみならず非還元糖とも反応する。非還元糖と の反応は、過ヨウ素酸ナトリウム存在下、アルカリル性で進行する (検出限度、5-10 pmol)。

 

9.2. プレカラム誘導体化試薬

 DBD-ProCZ、ANS、2-AP、Fmoc-ヒドラジン(Fig. 1)などが還元糖の試薬として開発されている。いずれも、試薬のアミノ あるいはヒドラジノ基と糖のアルデヒドあるいはケト基との縮合 反応に基づいている(Fig. 2)

 

 

10.ジエン類の蛍光誘導体化試薬

P-TAD、DMEQ-TAD、A-TAD (Fig. 3)などのCookson型試薬が開発されており、ビタミンD関連物質の計測に利用されて いる(Fig. 4)

 

 

11.核酸関連物質の蛍光誘導体化試薬

 核酸はポリヌクレオチドで、それを構成するモノヌクレオチド は核酸塩基とデオキシリボース(または、リボース)及びリン酸 からなる。従って、核酸関連物質の計測には、核酸塩基、糖ある いはリン酸をそれぞれ認識する蛍光試薬が利用されている。

 

11.1. リン酸

 5'-ジメチルアミノナフタレン-1-[N-(2-アミノエチル)スルホン アミド](DNS-EDA)が、モノ、ジ、トリグアニンヌクレオチド 及び2'-デオキシグアニンヌクレオチド-5'-リン酸のラベル化剤と して報告されている。これらの核酸との反応は、グアニン ヌクレオチドのリン酸との反応に基づいており、1-エチル-3-(3-ジメチ ルアミノプロピル)カルボジイミド(WSCまたはEDAC)の存在下で行われる (Fig. 5)(検出限度、5-20 pmol)。

 

11.2. 糖

 ヌクレオチ(シ)ド糖部の高選択的蛍光試薬として、還元糖の選 択的な蛍光試薬であるp-MOED(Fig. 1)が利用できる。本試薬は過ヨウ素酸酸化したリボースに対して発蛍光し、リボヌクレオ チ(シ)ド類のポストカラム用試薬として使われている(検出限度、 4-6 pmol)。この試薬は、デオキシリボヌクレオチ(シ)ドとは反 応しない。
 ヌクレオチ(シ)ドの糖部5'-水酸基の蛍光ラベル化試薬として、 アルコールの蛍光誘導体化試薬であるOMB-COClが使用できる。 本試薬はベンゼン溶液中で少量のピリジン(反応促進剤)存在下、 アルコールと反応(100℃、40分間)して蛍光性エステルを与え る。この方法はヌクレオチ(シ)ド及びモノ-からテトラヌクレオ チドを高感度に計測できる。しかし、それより長いヌクレオチド については反応收率が低くなる。反応液にアジ化ナトリウムを加 えておくとラベル化が進行しやすい。

 

11.3. アデニンヌクレオチ(シ)ド

 クロロアセトアルデヒドやブロモアセトアルデヒドが、この試 薬として報告されている。これらは、アデニン残基と反応し、安 定な蛍光物質を与える(Fig. 6)。反応は、弱酸性(pH4.5)の水溶液中、80-100℃、10-30分間の加熱で行い、プレカラム誘導体 化による。ブロモアセトアルデヒドはポストカラム誘導体化にも 利用できる。

 

11.4. グアニンヌクレオチ(シ)ド

 フェニルグリオキサール(PGO)は、グアニン及びそのヌクレオ チ(シ)ド類に対して、マレイン酸塩緩衝液(pH3-5)中で加熱す ると、蛍光性物質を与える(Fig. 7)。この条件下では、アデニン、シトシン、チミン、ウラシルなどの他の核酸塩基やそれらのヌク レオチ(シ)ド類には蛍光性を与えない。PGOのアルコキシ体で ある3,4-ジメトキシフェニルグリオキサールなどが、さらに高感 度なグアニンの試薬として開発されている。また、緩和で迅速な 反応条件 [リン酸緩衝液 (pH7.0) 中、37℃、5分間] により、グアニンヌクレオチ(シ)ドを誘導体化できる。

 

11.5. ピリジンヌクレオチ(シ)ド

 フェナシルブロミドがシトシン含有化合物の蛍光試薬として、 開発されている(Fig. 8)

 Br-DMEQ、Br-MMCはウリジン、デオキシウリジン、チミジン などの活性イミノ基を有するヌクレオシドと蛍光反応する(Fig. 9)