実用的蛍光誘導体化
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福岡大学薬学部
山口政俊・能田 均


4 カルボン酸類の蛍光誘導体化

 生体、食品、環境中には、種々の脂肪酸、α-ケト酸、シアル酸、アスコルビン酸などのカルボン酸類が微量で存在し、重要な生理的役割を担っている。これらカルボン酸は、そのままではHPLC分離や検出が困難であるため、分析には誘導体化が必要である。本稿では脂肪酸について、次回にその他のカルボン酸について述べる。

4.1.カルボン酸用ラベル化試薬とその特性(図1及び2)

(1)現在開発されている試薬のほとんどがプレラベル化用である。

 これらは、発蛍光体とカルボキシル基との反応活性基から構成されている(図1)。活性基として(A)ブロモメチル(ブロモアセチル)基、(B)ジアゾメチル基、(C)アミノ基、(D)ヒドラジノ基などがある。
(A)に属する試薬(図2、a〜k)は、一般に、アセトンやアセトニトリル中、触媒(カリウムイオンと18-クラウン-6)の存在で、比較的高温で反応する。これらの試薬の中で最も高感度な試薬の一つとして、3-ブロモメチル-6,7-ジメトキシ-1-メチルキノキサリン-2(1H)-オン(Br-DMEQ:a)(検出限界、数百amol〜数fmol)がある。(B)として、9-アンスリルジアゾメタン(ADAM:l)があり、汎用されている。脂肪酸とは、酢酸エチル中、40℃、30分で反応する。反応性に優れ、反応促進剤を必要としないが、試薬が分解し易く、蛍光性の分解物や副産物が高感度分析を困難にする場合がある。類似試薬にmやnがある。mはADAMより安定であるが、反応性が劣る。(C)や(D)の試薬も多数(o〜u)存在する。これらは、縮合剤の存在下、室温で比較的短時間にラベル化できる。特に、DMEQ-NHNH2(r)は極めて高感度(検出限界、3-5 fmol)で、含水溶液中、水溶性カルボジイミド及びピリジンの存在で緩和な条件で反応(室温、15分間)する。ベンゾチアゾール骨格をもつ同様の試薬(BHBT:t)はDMEQ-NHNH2よりさらに高感度である。類縁試薬である4-(1-メチルフェナンスロ[9,10-d]イミダゾール-2-イルベンゾヒドラジド(DMBI:u)15)は、He-Cdレーザー励起蛍光検出用ラベル化剤として有効である。ミクロボアカラムとの併用により70〜100amolの検出限界を与える。
この他、NE-OTf(v)やAE-OTf(w)も比較的緩和な条件でラベル化が進行する。これらはテトラエチルアンモニウムカルボネートの存在下で反応し(室温、10分)、検出限界は数 fmolである。

(2)光学活性カルボキシル基(図3)

 発蛍光団として汎用されているダンシル骨格を用いたカルボン酸類の光学分割試薬DAPEA(a)が市販されている。DAPEAはアセトニトリル中、トリフェニルホスフィン及び2,2,-ジピリジルジスルフィドの存在でカルボン酸類と反応(室温、3時間)する。DBD-APy(b)やNBD-APyも光学活性カルボン酸の分離・定量に有効である。

 

4.2.6,7-ジメトキシ-1-メチル-2(1H)-キノキサリノン-3-プロピオニルカルボン酸ヒドラジド(DMEQ-H)の実用例

 DMEQ-Hは、水溶性カルボジイミド(N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド:WSC)の存在下、水溶液中においても緩和な条件で脂肪酸と反応する(図4)。従って、例えば血清脂肪酸の定量する際に、血清(いわば、水溶液)に直接、試薬(DMEQ-H)溶液を加えることにより、蛍光誘導体化が進行する。また、誘導体化条件が緩和であるため、熱や酸化に対し不安定な脂肪酸の分析に有効である。また、水溶性の高いカルボン酸(例えば、グルクロン酸抱合体)の計測に適している。一方、ブロモメチル試薬では、血清脂肪酸を弱酸性で有機溶媒に抽出し、乾固後、試薬溶液を加えて蛍光誘導体化を行う必要があり、操作が煩雑である。

(1)血清脂肪酸の定量(図5)

 DMEQ-Hの特性を利用し、血清遊離脂肪酸の直接誘導体化-HPLC蛍光検出法が開発された1)

2)尿中ステロイドグルクロン酸抱合体の定量(図6)

 DMEQ-Hは、グルクロン酸抱合体のカルボキシル基と水溶液中において容易に反応する2-3)

文献

1)T. Iwata, K. Inoue, M. Nakamura and M. Yamaguchi, Biomed. Chromatogr., 6, 120(1992).
2)T. Iwata, T. Hirose, M. Nakamura and M. Yamaguchi, J. Chromatogr. B, 654, 171(1994).
3)T. Iwata, T. Hirose and M. Yamaguchi, J. Chromatogr. B, 695, 171(1994).

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