生体試料中あるいは環境中の塩化物イオンの測定法として、各種方法が考案されていますが、なかでも簡便な方法としてイオン選択性電極を用いる方法が広く用いられています。塩化物イオンの測定に使用される陰イオン選択性電極としては、銀塩化銀に基づく固体膜電極や、PVCなどの高分子支持膜中に、第4級アンモニウム塩を感応物質(リガンド)として添加した高分子支持膜型電極が報告されています。その他、有機スズ化合物、有機水銀化合物、金属ポルフィリン化合物に基づくニュートラルキャリヤー型陰イオン選択性電極なども報告されています。しかしながら、この種の塩化物イオン選択性電極の選択性はいわゆるHofmeister序列によって支配され、脂溶性の高い陰イオンによって塩化物イオンの測定値が妨害を受けやすいという問題があります。その他にも、選択性が十分でなかったり、長期安定性が不十分であるなどの問題点もあります。
東京大学の梅澤先生らは、塩化物イオンの新しいニュートラルキャリヤー型イオノフォアとして、ビスチオウレア部位を基本骨格に持つBisthiourea-1を開発しました。塩化物イオンは水素結合の良い受容体として知られています。一方、このリガンドの2つのチオウレア骨格にある合計4つのNH基は水素結合供与体として働くことから、水素結合を形成して塩化物イオンと錯体を形成することが可能です。 Bisthiourea-1は、塩化物イオンと1:1で錯体を形成し、その錯安定度定数は840(M-1)(DMSO-d6中)であることが確認されております。
ポリ塩化ビニル(PVC)を高分子膜母材とし、膜溶媒にNPOEを用い、1wt% のイオノフォアとそれに対して50モル%のBisthiourea-1を添加して作成した塩化物イオン選択性電極を、イオン交換体(TDDMACl)を使用した従来型の塩化物イオン選択性電極と比較した結果をTableに示します。
塩化物イオン濃度が10-5から10-2Mで直線的にネルンスト応答し、測定限界は(6.5±3.0)x10-6Mであることが確かめられています。その他イオンに対する塩化物イオンの選択性は、SCN-、salicylate, NO3-、I-及び Br-に対して、log KPotCl,j値はそれぞれ、+1.6、+1.8、+0.7、+0.5 及び +0.4 であり、従来型のものより選択性が向上していることが確認されました。
この電極を用いて、馬血清中の塩化物イオンの定量を行い、電位滴定法で求められた値とほぼ同じ値が得られています。従来型のものより測定誤差が少なく、濃度測定の正確さにおいても信頼性の高いものといえます。
MPM: matched potential method; SSM: separate solution method.
aFor the chloride concentration range from 10-5.00 to 10-4.70 M. bFor the chloride concentration range from 10-2.34 to 10-2.04 M. cRequired selectivity coefficients for measuring chloride in normal blood samples. dSelectivity coefficients for these anions are too small to be accurately determined at 10-2.34 M Cl-.
参考文献
1)K. P. Xiao, P. Buhlmann, S. Nishizawa, S. Amemiya, Y. Umezawa, Anal. Chem., 69(6), 1038(1997).
2)P. Buhlmann, S. Nishizawa, K. P. Xiao, Y. Umezawa, Tetrahedron, 53(5), 1647(1997).
コード番号 | 品名 | 容量 | 価格(\) |
---|---|---|---|
Request | Bisthiourea-1 | 25mg 100mg |
19,000 59,800 |